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日本計量新報 2015年5月31日 (3058号)

ネパール地震と首都直下型大地震を重ね合わせる

ネパール国で地震が続いている。大地震は2015年4月25日11時56分に首都カトマンズの北西77km付近で発生。地震の規模はマグニチュード8ほどであり、死者8000人超、負傷者2万人超であり、推計した被害総額50億米ドルである。余震が続いており、2015年5月12日にマグニチュード6以上の余震が2回発生して、50人ほどの死者を出した。カトマンズの観光名所の1つ、円柱型の白い塔のダラハラ塔は地震によって崩壊した。この塔は1832年に建てられ、高さは62mである。
 ネパールの人口は約2700万人。国土面積は約150km2で北海道の2倍。人口比での東日本大震災の死者は約2万人、そして阪神淡路大震災による死者は6434人(行方不明者3人、負傷者43792人)と、比較すると人口比被害率はネパール大地震0.028%、東日本大震災0.017%、阪神淡路大震災0.0054%であり、ネパール地震は東日本大震災の死者率で2倍近く、阪神淡路大震災の3倍の死者発生率であった。
 地震災害による最大の死者を出したのは、1976年に発生した中国の唐山大震災で、唐山市では14万8000人が死亡、重傷者は8万人、市民の被害率は21.2%、住宅の全壊率は94%であった。2008年に発生した中国の四川大地震の被害も大きい。この地震による死者は6万9197人、負傷者は37万4176人であり、地震によって道路や電力・水道・通信などライフラインが破壊された。ネパール地震の原因は確定していないが、これらの地震と同じ直下型地震であった。地震は大きく分けてプレート境界の地震とプレート内地震があり、プレート内地震には、沈み込むプレート内の地震と陸域の浅い地震がある。
 ネパールを象徴するようなダラハラ塔がネパール地震で崩れ落ちた。以前にも地震でこれが半分ほど崩れていた。日本では国の行政機能が霞ヶ関に集中している。東京の中心部はずっとビル建設や再建のラッシュである。計量計測関係の団体の会合の場所として親しまれている東京會舘も再建工事をしている。高いビルが林立する偉容は好ましいのか、恐ろしい事態と見るかは立場による。建築設計で安全の計算はしているとはいっても、改変が頻繁な建築基準法に準拠しているということであっては、想定を超えた大地震が発生したときには大災害になる。
 都心から放射状につくられた都市高速道路とその下を走る道路は、阪神淡路大震災の事例に従えば崩壊する。停電して電気を使う設備は止まる。水道も機能を失う。道路は寸断され移動ができない。通信も人々が日ごろの10〜100倍とこれを利用するので残されていた通信機能は飽和状態になって使えなくなる。国の機関が手だてを打とうにもこれができない。行政機能は麻痺する。関東大震災と同じほどの地震は発生する。後藤新平が関東大震災からの復興にかけた熱意と手腕を平時にこそ、この国が思いおこして対応の策を講じることだ。通信手段の確保のために補完設備をすること、緊急時の指揮をここからできるようにすることは、東日本大震災における東電の原発事故とその対応の事例の教訓である。
 福井の大地震は福井市を破壊した。同じような新潟の大地震も忘れられない。高知市には戦時中に大津波が襲った。ほかの地域でも地震と津波による大きな災害があった。阪神淡路大震災も東日本大震災もついこの前に起こった災害である。これはほかの地域でも起こる。ネパール国は地震からの復興をどのようにするか。同じ地震があれば同じような被害を受けるようなことを日本ではしてきた。ネパールでもダラハラ塔でこれをした。東日本大震災で津波などによる大被害を受けた三陸沿岸地域の復興は、住宅地の高台移転や津波と地震に強い街をつくろうとしている。復興したこの地域は地震と津波による災害に強い街になる。とはいっても沿岸部にある工場などの施設がそのまま運営されており、早急には津波からの安全を確保する状況にはない。
 写真の世界では憧れの対象になってきたライカカメラのレンズの補修を日本のライカ認定工場がおこなっていて、その補修のためにはレンズを測定してその状態を把握することから作業が始まる。日本の首都とその行政機能の地震災害などからの脆弱さを測定して、後藤新平と同じ状態で理解している国の要人がいかほどいることか。日本の地震と津波災害への対応はいまのままでは駄目だ。堺屋太一氏は東日本大震災は日本の第2の敗北だと述べた。日本の人口減少を年金計画に織り込まなかった国の機関はこのことを隠していたのである。首都直下型の大地震への備えなども、口先では語ってもまともに対応しないのは人口問題を隠してきたことと同じ手口になりそうである。
 よい学校に入学するための試験を解くことができ、特定の与えられた設問によく回答することができる人々が行政機関の要職にあり、国会議員のかなりの割合の人々がそうした経歴をもち、このこと自体はそれとして大事なことである。しかし、国の機関がする行政の内容はすべてを是とするわけにはいかない。人口減少のことはこの方面の研究者に聞けばわかることであるが、知らない振りをして国家計画を立ててここまで進んできた。国会議員も当てにならないとすると日本の行く末に安閑としてはいられない。

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