計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2011年4月  3日(2864号)  10日(2865号)  17日(2866号)  24日(2867号)
社説TOP

日本計量新報 2011年4月3日 (2864号)

原子力発電の危うさの背景にある幾つかの事情

日本における地震を原因とした原子力発電所の深刻な事故発生は、今回の大地震による福島第一原子力発電所が初めてではない。
 2007年(平成19年)7月16日10時13分に新潟県中越地方沖を震源とするマグニチュード6・8の新潟県中越沖地震が発生した。同日10時25分頃に東京電力柏崎刈羽原子力発電所3号機変圧器から火災が発生、3号機の火災現場の消火用配管は破損していて機能しなかった。消火活動を地元消防に依頼するが、地震の影響で消防隊の到着が遅れたために出火から2時間ほど経過した12時10分に鎮火。放射能漏れは当初は確認されなかったものの、その後の調査で確認された。このときの放射能漏れは少量で環境への大きな影響はなかったが、この事故で、施設の耐震基準や震災時の火災発生に対する対応などを改善しなければならないことが判明した。
 この事故の責任に関して新潟県知事の呼び出しを受けた東京電力(以下東電)の当時の社長は「いい体験にしたい」と述べて物議をかもした。物言いが事故の内容にふさわしくなく、原子力発電の基本的な課題への認識を欠くものとして、その姿勢を問われたのである。

 事故の反省は、その後どう活かされたのか。「いい体験にしたい」はずがまったく活かされていなかったことが露呈した。2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震においてである。この大地震で東京電力福島第一原子力発電所の燃料棒がくすぶり続けて高温となり建物を破壊、放射線が漏れて地元住民の避難措置がとられた。発電所は海岸に隣接していて、地震による津波の被害でディーゼル式の非常用発電機が機能を失い、炉心を冷やすことができなくなったうえ、基本的な電源が失われた。中央制御室に仮設バッテリーを持ち込んで対応したが、原子炉の状態を直接監視できる中性子計測装置も電源が途絶えたことで機能しなくなった。間接的に監視するための差圧式の水位計など多くの計測装置も故障し、設備の状態を把握する機能を失った。以後は手探りの状態で炉心の過熱を抑える活動をすることになる。
  今回の大地震で岩手県から福島県にかけての東北地方が、沖合方向の東向きに最大約3・5メートルずれ動く地殻変動が起きていたことが、3月28日までに国土地理院(茨城県つくば市)による衛星画像の解析で分かった。震源(宮城県・牡鹿半島の東南東沖約130キロ)に近いほど変動が大きく、牡鹿半島付近が東南東方向に約5・3メートルと最大。岩手県釜石市付近で約2メートル、同県宮古市や山形県東根市、福島県伊達市付近は約1メートルずれていた。地盤は東側に向かって現在も動き続けている。
  地殻が動くことがある場所に原子力発電所をつくることの是非、津波対策、そして地震発生の際に安全に運転を停止させる確実な技術の確立など、基本的な事項での課題は多い。

 それでも原子力発電が追い求めれる理由は何であろうか。
 福島第一原子力発電所に使用されている原子炉「マーク1型」は米国製である。設計当時、米国への何らかの配慮があったのかもしれないが、今となっては推測の域を出ない。
 公になっている原子力発電推進の大きな理由は、エネルギー自給率を高めようとする国策に沿うというものである。原子力の燃料となるウランは、使い終わったものを再処理して再び使用でき、一度輸入すると長期間使うことができる。日本は、原子力を準国産エネルギーと位置づけている。資源エネルギー庁発行の「エネルギー白書2007年版」によると、原子力を含んだ場合の2004年の日本のエネルギー自給率は18%である。しかし、天然ガスや原子力の燃料となるウランは全量が海外から輸入されているので、それを含まないと自給率はわずか4%となる。
 電力供給においても、原子力発電はなくてはならないものとなっている。「原子力・エネルギー」図面集2011によると、2009年における割合は、原子力が29%、石油などが7%、石炭が25%、天然ガスが29%、水力が8%などである。今後は、化石燃料を利用する発電方式から、太陽光などの再生可能エネルギーや原子力の利用を推進するという構図によって、電力政策が推進されている。
 原子力発電所の建設は政府政策であり、その推進のためには立地場所に問題があってもないものとして処理されてきた可能性がある。東京電力柏崎刈羽原子力発電所の立地を決定する際、地質系の学者が政府の審議会で、活断層の有無の理解をねじ曲げて説明するなど、建設決定のために都合の良い発言をしていたことを、NHKラジオに招かれた別の地質学者が証言した。これが本当ならば、国と電力会社が「原子力発電は安全である」と勝手に決めてきた構造が浮かび上がる。原子力発電設備の運転の安全性に関しても同様のことがないとは言えない。
 国策とはいえ、真実を隠してまで原子力発電所建設を強引に推し進める行為は許されるものではない。今後、総合的な観点から見直されることになるだろう。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次本文一覧
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.