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日本計量新報 2010年10月3日 (2840号)

計量器販売事業者は購買者のよき助言者となるべきである

江戸時代には秤座、枡座といった制度があって、藩が計量器の製造や販売を統制していた。明治以降も長い期間、度量衡器の製造と修理、販売事業は免許制度であった。江戸時代に製造、販売の事業者が少なかった上、明治以降も事業者の数を制限し続けた。
 しかし、現在では、計量法の規定により定められた書類を都道府県の計量行政機関に届ければよい届出制になっている。基本的には誰でも計量器の販売を行うことができるようになった。計量器専門販売事業者は、全国で200社程度である。
 「計量器」というと、ものさし・ます・はかりに限定して捉えられることが多い。計量器を指す「度量衡器」という語が、元々「『度(長さ)』『量(容積)』『衡(おもさ)』をはかる器具」という意味を持つからである。確かに、ものさし・ます・はかりは、物を測定するための代表器具であり、江戸期以来、計量器の取り締まりはこの3器種を始めとして実施されてきた。
 国は、1871(明治4)年の度量衡条約公布で度量衡器の全品検定を実施して以降、1952(昭和26)年までの度量衡法時代は、計量器の全品検定主義を掲げていた。しかし、科学技術の発展とともに、計量・計測機器はその種類と数量を増し、全品検査の実施が次第に難しい状況となった。
 現在、計量法が規定する検定や検査に関わっている計量器は特定計量器といい、はかり(質量計)、電力量計、タクシーメーター、水道メーター、ガスメーターなど18器種である。数量としても、計るための器具機械装置の1%全体に達するか達しないかの量であるが、これらの計量器の性能が取引証明分野でしっかり保持されることによって、国の計量の安全が確保される構造になっている。

計量法では、計量の安全確保のため、製造事業者だけでなく、販売事業者にも厳しい規制を課してきた。しかし、これも製造事業者への規制同様、時代と共に規制緩和が進んでいる。新計量法が1993(平成5)年に施行され、計量器の販売が登録制度から届出制度に改正された。更に1998(平成10)年には、体温計・血圧計が届出制度の対象から除かれた。
 以前は、はかり事業販売に関係する金物店などは販売事業の登録を求められていた。同様に、体温計と血圧計の販売に関係する薬局、薬店なども、体温計と血圧計の販売登録をしていた。それが、計量法の改正により、金物屋のはかり販売事業は一度きり届け出を提出すればよいことになり、薬局などは体温計と血圧計を販売するにあたって、届け出の必要がなくなった。
 規制を大きく緩めた後に、目立った不都合が生じていないのは幸いである。今の日本では、詐欺目的の悪徳業者を除いて、ほとんどの計量器販売事業者がまともな商品を取り扱っている。
 このように、計量器の販売者の自由度は高まっているにも関わらず、購買者が計量器を選択して購入する場合に、その使用目的に適合した商品を首尾良く購入することは難しい。
 計量器の使用目的が必ずしも限定的でなかったり、どの程度の精密さで計る必要があるかを知らない購買者が意外に多い。
 そこで、購買者の知識不足を補って質問に答え、計量器の精密さと耐久性、価格等をはかりにかけて、購入者に助言できるのが、計量器の専門家のいる、販売事業者や販売店である。
 計量器の持つ能力を熟知して応用することで、活用場面も広がる。たとえば、上皿自動ハカリを活用して、豆腐の崩れにくさ、固さ、食感を計り、高品質の豆腐が作っている例がある。上皿に豆腐を載せ、その上に板をかぶせて押しつけて何キログラムで豆腐が変形し、さらにつぶれるかを計り、その計数から理想とする質感を実現するのである。計量器の専門家以外は、「固さを計るから、硬度計を買う」といった短絡的な思考に走りがちだが、それでは質感を知りたいという課題は解決されない。
 NHKの計るだけダイエットの放送を通じて、市販価格が1万円以上もする体組成計機能付き体重計がよく売れている。こちらはNHKが計量器購入の助言をした結果であり、悩み解決の相談にのるというコンサルティングの大事さを実証している。
 計量器販売事業者の法令上の位置付けは変遷してきたが、専業者の役割で今日大切なのは、購買者が目的にかなった計量器を購入できるよう、助言者することだ。個人はもちろん、企業が必要とする精密で複雑な計量器に対する助言も、役割の一つである。規制緩和が進み、販売することが安易になっても、助言するための知識など、事業者に求められるものは大きい。研鑽を積んで能力を蓄えることが大事である。

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