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イノベーションで不連続の変化起こす


寺岡 和治

(株)寺岡精工 代表取締役社長

vol.1

日本計量新報 2011年7月31日 (2880号)2面掲載

通信環境構築が役立った

−−地震の被害はいかがでしたか。

電子メールや情報共有の仕組みを構築していた

寺岡和治3月11日の地震が発生したときには、私は会社にいました。すぐにさまざまなところと連絡を取ろうとしましたが、電話は全然通じなかったですね。
 当社は岩手に工場がありますが、ネットワークを構築していたので、Eメールですぐに状況を確認することができました。
 そういう環境を、早い段階からのグループウエアの導入からはじめて、電子メールや情報共有の仕組みをwebベースで構築してきていたので、それが機能しました。したがって、情報に関して困ったことはなかったですね。

安否確認には苦労

ただ、東北沿岸にある営業所の社員の安否確認は難しかったですね。無事を確認するのに5日間かかりました。避難所に入っていたので、数多く避難所があるなかで、どの避難所にいるのか、それを特定するのが難しかったのです。


−−現在の、政治、経済の状況をどう見ていますか。

お金も人も集まる日本に

政治のリーダーシップが必要

今ほど、政治のリーダーシップが必要とされているときはないでしょう。特に今は、東日本大震災後、国民は復興に関して明確な方針を求めていますし、外国からも、今後、日本はどうなっていくのか注目されていますから。これが現在の何よりも重要な課題です。
 しかし、残念ながら局所的な政局の話ばかりしか聞こえてきませんね。そういう意味では、私は、政治家がきちんとリーダーシップを発揮し、日本の復興、発展の将来をはっきり見据えて、牽引していくということに関しては悲観的です。

以前の状況に戻すだけではダメ

東日本大震災からの復興に関していえば、ただ以前の状況に戻すというのではダメで、やはり、百年の計をきちんと展望して、東北地方の、ひいては日本の将来をどういうふうにしていくのかということをきちんと考えなくてはなりません。そうすることにより、今までとは違った東北地方の経済や住民の生活のあり方が出てくるだろうし、またそれにより、日本そのもののあり方、国の形が変わってくると思います。
 今回の大震災の影響は大変ですが、これをどうやったら「災い転じて福となす」ことができるのか、という発想が必要です。

政治家の思惑だけで明確なビジョンなし

ところが、現実には、政治は、場当たり的な政策を、しかも五月雨的に策定して実施しているだけですね。きちんとしたビジョンが出せていません。復興・発展に関する統一的な提言は、政治の場以外からは少しづつ出てきています。しかし、そういったものもそれが政治の場に持ち込まれると、政治家や役所の思惑に左右されて、明確なビジョンが薄められてしまっています。
 たとえば、東北地方には半導体工場を含めて、重要な部品を造っている工場がたくさんあります。東北地方には産業に関するポテンシャルがそれだけあったわけです。この強みを活かすことを考え、これを核として、世界中からお金や人が集まってくるようにしていく。また、東京への一極集中を変えるきっかけにもできると思います。

世界からお金や人が集まる東北地方に

 日本国内だけのことを考えていてはダメです。世界を見渡すと、中国やインドなどアジアの国々の経済はものすごい勢いで発展をしています。そういう発展する市場、ビジネスチャンスを見据えた企業が、日本の東北地方を拠点として活動できる仕組みをつくる必要があります。
 7月1日付の『日本経済新聞』に、電子機器の受託製造サービス(EMS)で世界首位の台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、液晶パネル工場をブラジルに建設するという記事が載っていました。この鴻海精密工業というのは、米アップルの「iPad(アイパッド)」や「iPhone(アイフォーン)」の生産をほぼ一手に引き受けている企業です。
 鴻海はこれまで中国に工場をつくっていたわけです。今回のブラジルへでの工場建設は、日本の震災に学んだリスク分散や、政治的な関係、今後の成長が見込まれるブラジルのマーケットをにらんだものだと思います。
 このように世界的な企業は、個々の国の行政的枠組みや地理的な枠組みに囚われずに、世界を見渡して、どこで開発をしたらよいか、どこで生産したらよいか、どこの市場で販売したらよいのか、ということを常に考えているわけです。
 ですから日本がそういう企業に対して、人材も含めて最適な立地条件を提供すれば、そういう企業がどんどん日本に進出してきます。そして、日本のマーケットは、成熟していて伸びが鈍いといわれていますが、ヨーロッパに匹敵する規模の、高度に発達した巨大なマーケットです。これに日本の良さがプラスされれば、日本も世界的な企業の選択肢に入ってくるわけです。

リーダーシップの欠如

残念ながら今はダメです。日本の政治家にこういう視点はありません。私は本当に政治のリーダーシップが今こそ必要だと思います。これがすべてです。
 政治の場で、税と社会保障の一体改革が議論されていますね。政府・与党は、社会保障と税の一体改革で最終案を正式決定しました。これも、言葉だけは「一体」ですが、全然一体とはほど遠いですね。たとえば、給与所得者の給与明細を見てみると、給与から税金が引かれていますね。さらに社会保険料も引かれていますね。ですから、給与所得者から見れば、所得税や住民税と、社会保険料を区別する感覚はあまりありませんね。どちらも給与から天引きされるものである点では同じだからです。
 しかし、税金は歳入として一般会計に繰り入れられます。ところが保険料は特別会計に繰り入れられます。別々です。ではこの会計を一体にするのか。「社会保障と税の一体改革」という言葉を聞くと、当然そのことを考えます。
 けれども、今度の改革案と称するものは、その枠組みすら変えていません。税や保険料を払う給与所得者は、彼らの目から見れば一体で払っているわけですから、当然、使う方も一つの枠にして、有効に使うべきです。
 日本の税収は約40兆円です。一般会計の歳出が約92兆円ですから、税収で足りない分は、国債や埋蔵金をやりくりしてやっているわけです。ですから、そういう工夫は、われわれのようなビジネスをやっているものから見れば、当然すぎるほど当然のことです。政治家はそれがわからないのですかね。信じられません。政治は、こういう根本的な方策をきちんと示さなくてはなりません。

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