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日本計量新報 2011年4月24日 (2867号)2面掲載

解説 原発事故の評価尺度

福島第一がレベル7に

4月12日午前、経済産業省原子力安全・保安院(以下保安院)と内閣府原子力安全委員会(以下安全委)は、福島第一原子力発電所の事故について、国際原子力事象評価尺度(INES)の評価を「深刻な事故」とされるレベル7に引き上げた。福島第一原発からの放射性物質の放出総量が、現時点で37万〜63万テラベクレルと推定され、INESのレベル7にあたる数万テラベクレル以上に相当したためである。

なお、過去同じ評価を受けたチェルノブイリ原発事故での放出量に比べると、現時点ではその約1割前後とされている。

事故評価をめぐる動き

保安院は、3月11日の事故発生直後、暫定評価でレベル4としていた。

しかし、3月15日、アメリカの科学国際安全保障研究所(ISIS)は今回の事故をレベル6もしくはレベル7に相当するとの見解を発表。同日、フランス原子力安全局もレベル6にあたると述べた。

これらの国際世論を受けるかのように、3月18日、保安院は暫定評価をレベル5に修正。

3月23日、安全委は、事故評価の根拠にもなる放射性物質放出量の試算を初めて発表した。この時の結果は、3万〜11万テラベクレルで、すでに安全委はレベル7に相当する可能性を認識していた(代谷誠治委員)。

しかし、このときは測定地点が3地点しかなく、試算値はプラスマイナス10倍程度の誤差があると考えられた。安全委は、23日の公表後、測定地点を33地点に増やし、誤差プラスマイナス3倍程度の幅にまで圧縮。

4月11日、安全委と保安院双方による放出量の算出に基づいて、レベル7に引き上げられた。

放出量の算出法

放射線物質の放出量の算出につき、保安院と安全委でそれぞれ異なる方法を用いている。

放射線観測を担う安全委は、福島第一原発付近33カ所でのモニタリングにより得た実測値と、放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を予測するシステム「SPEEDI」(スピーディ)の計算値をもとに放出量を逆算。

原子炉を監視する保安院は、地震発生時に原子炉内に存在していた放射性物質の量を計算し、圧力低下のためのベントなどの作業による漏出量を算出した。

その結果、安全委による放出量は、放射性ヨウ素131と放射性セシウム137(ヨウ素換算)の合計で63万テラベクレル、保安院による放出量は、ヨウ素とセシウムの合計で37万テラベクレルとなった。

INESとは

国際原子力事象評価尺度(INES)は、原子力施設で起きた事故の深刻度を示す、世界共通の統一基準である。国際原子力機関(IAEA)と経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)が1992年3月に策定、日本は同年8月1日に導入した。

0から7までの8段階があり、以下の3つの基準により評価される(表参照)。

(表)国際原子力事象評価尺度

(1)所外への影響

放射性物質の外部放出や、これに伴う一般公衆の被曝線量など、発電所外の外への影響の観点からの基準。

(2)所内への影響

原子力発電所内への影響の観点からの基準。放射性物質による所内のかなりの汚染や、法定の年間線量当量限度を超える従業員の被ばくを伴う場合。

(3)深層防護の劣化

深層防護とは、多重、多彩な安全システムや運転時の定例試験、定期検査、保守点検、運転方法など、ハード・ソフト両面にわたる安全追求手段のこと。これらの劣化の観点からの基準。

INESでは、レベル1〜3を「異常な事象」、レベル4〜7までを「事故」として大別する。さらに、レベル1に満たない、安全上重要ではない事象は、レベル0に分類。また、原子炉や放射線関連設備の運転には関係しない事象は、この尺度では対象とせず、「評価対象外」とする。

チェルノブイリの事故

1986年4月26日に旧ソ連(現ウクライナ)で起きたチェルノブイリ原発事故も、レベル7の評価を受けている。 

操業休業中の4号炉での試験運転中、計画変更やミスのため、不安定な状態のままで実験を開始。ずさんな操作や緊急対応の誤りから、原子炉が暴走し、爆発(蒸気および水素)した。爆発によって、原子炉内の放射性物質が大量に大気中に放出、ヨーロッパを中心に北半球の広い地域に散らばった。

このとき放出された放射性物質は、事故が沈静化するまでの10日間で520テラベクレル。IAEAによると、広島に投下された原爆の400倍にあたるとされる。 

原発から半径30km圏内に住む住人11万6000人全てが強制避難を余儀なくされ、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアの計40万人が移住した。被災した三国は、セシウム137などの放射性物質が土壌に蓄積し、食品などが汚染された。

2006年にIAEAなどの国連関係団体が行った報告によると、事故による放射線被曝にともなう死者の数は、これまでに確認された死者が56件、被災者60万人に予測されるガン死が3940件となっている。

保安院の西山英彦審議官は、4月12日の会見で、(1)放射線による急性症状のある被爆者がいないこと、(2)原子炉が原形をとどめていること、(3)作業員が敷地内ですでに収束のための作業にあたっていることを挙げ、同じレベル7でもチェルノブイリ原発事故とは相当違うと強調した。

ただし、これはあくまで現時点での状況であり、1カ月たった現在も未だ安定していない以上、今後も予断を許さない状況であるといえる。


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