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積小為大ということ

(社)メジャーテックツルミ代表取締役社長 横須賀健治  

 百年前「少年の為の斥候術」(Scouting For Boys)という本がイギリスで書かれた。観察・推理することが少年をワクワクさせ、向上心を燃えさせた。産業革命があり殖産振興の中で取り残された少年に夢を与えた。そのもう約百年前の1803年に酒匂川が大洪水をおこした。小田急線に乗って4つ目の駅を降り5分位歩くと、捨苗栽培地跡の看板と公園があった。二宮金次郎が、大水で荒れ果てたほったらかしにされた地に、捨てられた苗を植えた場所と書かれていた。

 金次郎が尊徳として農地改革・財政改革をしたことは良く知られている。

 その原点が最初は小さい苗もやがて成長し収穫をもたらすという積小為大であり、捨苗栽培地であった。

 影日向なしの尊徳富士真っ白

 冬菊のひとかたまりに手をかざす

 二宮尊徳の生誕の家が近くにあった。生家を訪ねた時、私は懐かしい人にあったように嬉しかった。お父さんがなくなり手放した家。家計を支える為に山へ行って薪を拾い町で売ってもいくらにもならない。それでも少年ができることはかぎられていた。だから歩きながら本を読む。夜の灯の油が足らず、菜の花を道の端に植え、油をつくる。奉公先が学問好きだったこともあって、学問の修得もできた。苗を段々増やし、収穫をあげた。田畑も増えそして家を買い戻した。

 物理書の横に三弦寒明ける

 物差しの目盛りの数や霜柱

 新しい年を迎えた。ここ数年霜柱が立つ日数がすくなくなった。霜柱の上に羽根がおちていることもあった。新しきこと、新しき仕組み、時代は予期しないことの積み重ねのなかで、新しき課題を突き付ける。それは私達への警告であり、次に来る時代への期待でもある。様々な摩擦があってボールは転がり、止まる。約束事、前提が合って物事は進む。物理の講義をきいているさなかに三味線の音が聞こえた学生時代が懐かしい。当たり前に思えることは大変なことなのだと気が付く。当たり前に生きていることは実は大変なことなのだ。仕事ができること、食べられること、朝が来ること、声を掛けられること、叱られること。

 今年は計量の改正作業が進んでいく。変わるという人、余り変わらないという人。変わらなければいけないこと、変わってはいけないこと。ここにも摩擦があるであろう。

 次の時代をつくるのは今の積み重ね。変えていかなければいけないことと、変えてはいけないことがある。

 貧富訓の碑に凭れける稗を刈る

 草鞋綯う庵を覗く実万両

 数年前から二宮尊徳に興味をもち、所属するボーイスカウト運動の指導者研修プログラムの或る夜の集い用に「尊徳さんありがとう」の7分の寸劇を書いた。先の第二次臨時行政調査会会長であった土光敏夫さんが「行財政改革の先駆者に想う」という二宮尊徳さんへの一文を残していることも最近知った。土光さんといえば、近所に住むよしみで、連れていった20名ほどの子ども達に、にこにこ話をしてくれ、缶ジュースをご馳走してくれたことが思い出された。改革の最中であり、経団連から「横須賀はどういう人物か」と厳しい調査が裏であったとも聞いた。

 「斥候」と「積小為大」は「観察・推理」と「はじめは小さくとも」ということ。新しい年にとりわけの秘策があるわけではない。だからこそ日頃感じることを述べ、思案もする。新しい年が活力あるものにするためにも、勇気と自信をもって進めていく風潮が求められている。明日があるから私達は歩いていけるのだ。

(以上)

 
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