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日本計量新報 2012年12月9日 (2945号)

定期検査の民間委託と運営の永続性の危うさ

商店や魚市場あるいは大きな事業場などで取引あるいは証明のために使われているハカリ(質量計)は、かつては市部は1年周期で、町村部は3年に1度の周期で定期検査が実施されていた。都道府県に代わって定期検査を行う市が特定市と呼ばれている。そしてハカリの定期検査は1994年(平成6年)11月からは一律に2年周期に代わった。
 ハカリの定期検査は計量士が代行することができる仕組みがあり、県や市が計量士の団体などに委託して定期検査の一定部分を処理している事例は多い。また計量士事務所の組織や計量士個人のかたちでハカリ使用者の求めに応じて定期検査を実施することも広く行われている。ハカリの検定も定期検査も「ユーザー検定」という言葉で表現されるように、使用者が自らの責任で受検することになっているので、計量士は使用者の依頼によって定期検査を実施する。計量士は定期検査を実施したハカリの所在場所や使用者などを役所に書類提出することを義務づけられている。ハカリの定期検査に代わる仕組みとして適正計量管理事業所制度があり、指定事業所には計量士がいて定期検査に準ずる管理をしているので、定期検査が「免除」される。計量法は役所が計量協会や民間事業場を指定して、ハカリの定期検査を実施させる指定定期検査機関制度を設けていて、指定定期検査機関によるハカリの定期検査の実施割合が高まっている。
 ハカリの定期検査は1967年(昭和42年)6月から有料になった。ハカリの定期検査料金は都道府県などが定める条例によって決められている。その料金体系は無料時代が長かったことが関係していて、検査実施の実費をはるかに下回る。使用者の依頼を受けて計量士が実施するハカリの代検査の料金は依頼者と受け手との合意により、休日実施、始業前あるいは終業後実施、ほか計量知識の供与などを含めた実施の利便性を盛り込んだ内容になっていて、役所が実施する定期検査料金よりも高い。指定定期検査機関制度によって指定を受けて定期検査を「代行」している計量協会などは、検査実施の運営費と検査料金の差額を埋めるお金が役所から提供されることによって成り立っている。指定を受けている計量協会の職員の計量士ほかは完全に検査業務にかかりきりで仕事をしている。その処遇の状態は公務員並みには遠く及ばない。ハカリの定期検査業務に対して無理解な首長とその意向を受けた職員による補助金の減額はじわじわと進行している。
 役所の一部にはハカリの定期検査実施に意欲がないどころか、定期検査をきちんと実施しなければならないという意義付けが弱いところすらある。ハカリの使用現場を直にみている計量士のなかには、「取引もしくは証明に使用されているハカリの定期検査の実施割合は5割を下回る」と断言する人が少なくない。
 NHKテレビが報じたことであるが、役所の正規雇用者の平均賃金が600万円ほどであるのに対して、非正規雇用者の平均賃金は200万円ほどか、それを下回る。正規雇用者と非正規雇用者に能力の格差を見いだすことはできない。これに近い実態が役所の正規職員と指定検査機関で検査に従事している職員との間にも見受けられる。イギリスで実施してうまくいったようにみえた官業の民間委託の代表的な考え方のPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)とひとくくりのPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)によって、ハカリの定期検査を実施している地方公共団体がある。計量法に指定定期検査機関制度を盛り込んだことの背景にこうした考え方がある。財政規律の確保と公共サービスの提供ということを同じ達成できる仕組みとしてのPPPとPFIには功罪があって、英国では委託されたサービスを提供する労働者が低賃金と長時間労働という状態におかれている。

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