メートル条約に大きな動き
計量標準の国際相互承認協定がこの秋結ばれる− 地域計量組織の役割重要に −

今井秀孝(工業技術院計量研究所長)
- 日本計量新報1999年3月28日号から4月11日号掲載 -

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聞き手は、本紙横田俊英論説員

INDEX 計量標準の相互承認の動き活発に
MRAのもう一つの内容は校正証明書の相互承認
計量分野の広がり
第3段階のSI化へ全力投入を
【用語】(登場順)

 計量標準の相互承認の動き活発に 

今井秀孝氏

−−計量標準に関して各国間での相互承認の動きが注目されていますね。

●昨年2月に仮署名

 メートル条約の中では今、MRAという相互承認協定に関する文書を作っています。昨年の二月に各国の計量標準研究所長会議が開かれて、そこでMRAの文書について仮署名がなされました。

 その後この文書はいくつかの手直しが行われています。文書案はまず昨年の五月に修文され、七月、十二月にも改訂されています。また今年の二月に国際度量衡局(BIPM)とAPMP(アジア太平洋計量計画)など地域の計量組織(RMO)との合同会議が開かれて、そこでまた変更されました。ですから現在のところでは、最終的にどういう文書になるのか未確定な部分が若干あります。

●MRAの2つの内容

 このMRA文書は大まかにいうと、各国の国家計量標準の同等性を認め合いましょうということ(Part 1)と、各国の計量標準研究所などの国家計量機関(NMI)が発行する校正証明書をお互いに認め合いましょう(Part 2)という内容のものです。

●相互承認は法定計量や試験所認定の分野でも

 相互承認ということでは、今お話ししたメートル条約関係の相互承認のほかに、OIML(国際法定計量機関)関係、つまり法定計量の世界での相互承認(OIML証明書の相互承認など)があります。また試験所認定制度での相互承認の問題もあります。

●共通項はトレーサビリティ

 この辺の関係などが一般にはわかりにくいと思いますが、これらはトレーサビリティという観点で見ればほぼ同じ事だと思います。もちろん分野によって特定の意味づけや特質がありますが、本質的には似たところがあります。したがってどの分野でやっていることも似通っているので混乱しやすいのですが、ここにきてようやくはっきりしてきたように思います。

●計量標準の同等性の確認で何が大事か

 私は今年の二月に三つの会議に出席しました。一つはPTB(ドイツ物理工学研究所)と非自動はかりに関する型式承認試験結果の相互受け入れの話を開始してきました。次に出席したのは、APMPとかEUROMET(欧州計量協力機構)とかの地域の計量組織とBIPMとの合同会議(JCRB)です。この会議には私は計量研究所長としての立場ではなく、APMPの副議長という立場で参加しました。JCRBにAPMPからは現在の議長のオーストラリアのDr.Ingilsと、中国のProf.Shiと私が参加しました。三番目の会議は、OIML内の「相互信頼(Mutual Confidence)」に関する臨時作業部会です。ここでは、OIMLの計量証明書制度の活用・促進を図るための基本事項が検討されました。

 これら三つの会議で共通的に議論されたのが、国家計量標準の同等性を確認する際に何が大事かということです。やはり(信頼性評価を伴った)国際比較の結果が大事です。それからそれぞれの研究所のポテンシャルも問われています。技術能力と、データが大事ですから国際比較などでの技術的な証(あかし)を求めるということになります。

●計量標準の国際比較

 一番大事な計量標準へのトレーサビリティの体系をきちんと作るためには、各国の計量標準がしっかりしていなくてはなりません。そのためには、各国の計量標準研究所の技術水準と組織管理の実力を見ると同時に各国がもっている計量標準の国際比較をして、その同等性を確認しましょうということが課題になっているわけです。

 国際度量衡委員会(CIPM)の下に設置されている各諮問委員会(CC)を中心に核となる国際比較を実施していきましょうということです。たとえば長さ領域ではブロックゲージ、レーザの波長(周波数)、質量でいえば分銅の持ち回り比較、温度領域では密封セル型抵抗温度計などの比較をしていきます。

●2つの基幹比較

 それぞれの分野ごとの中核となる大事な国際比較をCIPM Key comparison(CIPM基幹比較)といいます。しかし、これらを全部CIPMでやるとなると莫大な量になってとてもやりきれるものではありません。したがって、これを地域ごとに分担してやりましょうということになります。これをRMO Key comparison(RMO基幹比較)といいます。 図1

 このCIPM Key comparisonとRMO Key comparisonの関係ですが、地域計量組織(RMO)によるキー・コンパリソン(基幹比較)の結果は、CIPMキー・コンパリソンに参加した地域計量組織の機関(複数が必要)の結果と比較することによって、CIPMキー・コンパリソンの結果とリンクされることになります。  また基幹比較によってカバーされないものについては地域計量組織(RMO)によって実施される補完比較(Supplementary comparison)があります。

●比較結果をどう表すか

 今年の一月に開かれた基幹比較に関する検討会議では、基幹比較の意義と内容について討議しました。また共通な事項として、国際比較で得られたデータをどう解釈し、結果をどういう様式で表現するかということを討議しました。「不確かさの表現方法の統一」がこのなかで活かされてくるわけです。

 国際比較の結果はBIPMによって公表され、データベースに記録されます。インターネットのBIPMのホームページで見ることができるようになるはずです。

 この会議には日本から五名が参加しました。計量研究所から二名、電子技術総合研究所から一名、物質工学工業技術研究所から一名、郵政省の通信総合研究所から一名です。それを受けて二月にJCRBが開かれたわけです。

●今年はメートル条約に関して大きな動きが

 今後の予定として、四月には国際度量衡委員会(CIPM)の時間周波数諮問委員会(CCTF)が開かれます。五月には質量関連量諮問委員会(CCM)、六月に測温諮問委員会(CCT)と電離性放射線諮問委員会(CCRI)、七月には電気磁気諮問委員会(CCEM)と新しくできた音響・超音波・振動諮問委員会(CCAUV)が開かれます。JCRBも七月にもう一度アメリカで会合をもつことになっています。

●MRAは今年10月に最終署名へ

 そして最終的には今年の十月に、四年ごとに開かれている第二十一回国際度量衡総会(CGPM)が開催されます。その期間中に、計量標準研究所長会議を開いてMRA(相互承認協定)に最終的な署名をするという運びになっています。このようにメートル条約に関して今年は相当大きな動きがある年です。

●地域計量組織の役割大きい

 今までの話でおわかりのように、地域の計量組織(MRO)の役割が非常に大きくなっています。APMPでもCIPM(国際度量衡委員会)の諮問委員会(CC)に対応した技術委員会(TC)を八つ設置しました。このうち二つのTCに日本から主査を出します(温度TCの小野晃部長/計量研と標準物質TCの野村明室長/物質研)。また、インターネットでAPMPのホームページも作ります。

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 MRAのもう一つの内容は校正証明書の相互承認 

 

●各国標準研究所の能力を比較

 MRAについてはもう一つ問題があります。それは各国の計量標準研究所の能力が同じかどうかを見るということが非常に難しいということです。これについては各国の計量標準研究所の品質システムがISO/IECガイド25という試験校正機関として具備すべき条件を満たしていることを証明しましょう、ということになります。この証明の仕方に大きく分けて二つの方法があります。

●2つの証明方法−第三者認定と自己宣言

  一つは第三者である認定機関がISO/IECガイド25にそって当該計量標準研究所の品質システムを認定する方法です。日本の場合JAB((財)日本適合性認定協会)が認定機関になって品質システムの認定はしていますが、トレーサビリティそのものの認定はしていません。現状では国家計量機関の技術認定を国内ではできませんので、どうするかという問題があります。外国機関から査察を受けるという形が考えられますが。

 もう一つは、自分のところは技術能力があるということを自己宣言する方法です。アメリカのNIST(米国標準技術研究所)などはこういう考えです。ただその際も外部からの査察は受けることになるでしょう。

 MRA文書に、今紹介した第三者認定と自己宣言の二つの方法について規定していますが、ここも最終署名までの間に調整が必要な点です。

●日本で校正証明書を取れば外国で通用する

  国家計量標準の同等性の確認と同時にMRAでやろうとしている、各国の計量標準研究所などの国家計量機関(NMI)の発行する校正証明書の相互承認が実現すれば、たとえば日本からドイツに輸出をしようとする場合、日本で校正証明書を取得していれば、改めてドイツでPTBなどから校正証明書を取得する必要はなくなります。

 MRAの基本は各国の計量標準を比較してその同等性を確認しましょう、計量標準研究所の能力や組織力も見ましょう、それをもとに各国の計量標準研究所が発行する校正証明書を相互に認めあいましょう、ということになります。

●相互承認は試験所認定分野が進んでいる

  試験所認定の世界では相互承認はすでにかなり動いています。この分野での世界的組織としてILAC(国際試験所認定協力)があります。これに対応するアジア太平洋地域の組織はAPLAC(アジア太平洋試験所認定協力)です。

 APLACでは日本のJABとJNLAが認定機関として登録されています。日本ではJNLAというJISに基づく試験所認定制度が稼働しています。日本の試験所認定制度に関してはJABとJNLAがすでにAPLACの認定を受けています。JCSS制度(計量法トレーサビリティ制度)では製品評価技術センターが認定機関になっていますので、今APLACへ申請をしており審査中です。

 こういう試験所認定では認定するための審査員(アセッサー)の能力が大事になります。JABやJNLAでは試験所の認定登録と審査員の認定登録と両方やっています。

 一九九三年にJCSS制度をつくったときには国際的対応は十年先ぐらいでいいのではないかという感じでした。それが制度をつくって三、四年後には早くも相互承認だの認定だのという国際化の波が押し寄せてきました。制度をつくった当時はこんなに早くそういう問題が出てくるとは思っていなかったですね。

●品質システムや国際比較のやり方は共通

 このように国際的な相互承認では試験所認定の世界がいま一番進んでいます。これを追いかけてメートル条約と法定計量の世界が同じようなことをやろうとしているわけです。それぞれテリトリーは違いますが、品質システムのこととか国際比較のやり方などはほとんど同じなんですね。共通しています。  ですから私は今年相次いで出席したメートル条約と法定計量の会議で、それぞれのやっていることが、重複しないということが大事だということを主張してきました。それはたまたま私が両方の会議に出る立場にあったからわかることで、どちらかの会議にしか出ていない人には伝わりにくいですね。国内でもそうですね。

●エキスパートの育成が急務

 こういう状況になってきますと、このような課題に精通したエキスパートを大勢育てなくてはならないということを痛感しています。

●国際的活動が重要に

 計量研究所の業務でも従来からの、計量標準を設定して維持、供給すること、計測技術を開発すること、法定計量に基づく検定検査業務のほかに、最近国際的な活動が非常にクローズアップされてきました。

 これはPTBの考え方とほぼ同じです。PTBは四つの柱をあげています。一つは計量標準確立のための研究とその維持・供給、もう一つは産業界への技術移転・産業界に役に立つ計測技術の開発です。三番目は法定計量です。四番目に国際協力の課題を挙げています。

 なぜ国際的課題が一層重要になってきたかというと、APEC(アジア太平洋経済協力)の大阪宣言等の国際貿易・取引等に関連した相互承認に関する国際的な流れがあります。産業界でも品質システムや環境管理に関する規格が普及してきています。そのなかでデータの信頼性が求められてきているわけです。国内でも、われわれがかなり強く主張したんですが、科学技術基本計画のなかに計量標準や標準物質の整備が大事だということが明記されています。昨年六月に出された知的基盤整備特別委員会の報告書のなかでも計量標準の重要性が強調されています。

 メートル条約でもアカデミックな単位の定義をしているだけではなくて、取引証明にかかる分野まで対象が広がってきています。メートル条約そのものがかなり産業よりになってきているわけです。そういうバックグランドがあります。その一例をあげますと、国際度量衡委員会(CIPM)のもとに置かれている諮問委員会に新しく「音響・超音波・振動諮問委員会(CCAUV)」が設置されました。 図2

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 計量分野の広がり 

 

●産業分野への広がり

 私は二つの意味で計量の分野が広がってきていると思います。一つはメートル条約で扱う範囲が広がってきているということです。今までは基本量を中心にやっていましたが、組立量に広がってきています。それどころか工業量である「硬さ」などについてもワーキンググループを作って国際比較をしようとしています。さらに健康、安全、環境保護といった問題についてメートル条約の総会で言及しています。扱う範囲がかなり広がってきているということで、メートル条約そのものがかなり現場に近い量まで扱うようになってきているということです。

●地域的な広がり

 もう一つは地域的な広がりです。いままではメートル条約では国際度量衡局(BIPM)を中心に集まっていました。それがAPMPなどの地域の計量組織(RMO)の活動が注目されるようになってきています。さきほどお話ししましたJCRB(地域計量組織と国際度量衡局の合同会議)をつくること自体が、地域計量組織を重視していることの現れであると同時に、メートル条約の活動がBIPMだけでは扱いきれなくなってきたことの現れです。地域の計量組織のなかではヨーロッパのEUROMET(欧州計量協力機構)、北アメリカのNORAMET(北米計量協力機構)、そしてアジア太平洋地域のAPMP( 図3 )が活発な活動をしています。

 地域的な広がりはメートル条約だけでなく、アジア太平洋地域でいえば法定計量分野ではAPLMF(アジア太平洋法定計量フォーラム)、試験所認定の分野ではAPLACの活動に見ることができます。  計量分野は二つの広がり、つまり産業分野への広がりと地域的な広がりと両方あるということです。 図4

●メートル条約に協力国制度つくる動き

  APMPに加盟している国でメートル条約に加盟している国は少ないんですよ。分担金のことがありますから。ですから今メートル条約に、少ない負担ですむオブザーバー的な「協力国」(Corresponding members)を作ろうという動きになっています。ISO(国際標準化機構)は百以上、OIMLも五十六ですから、メートル条約の加盟国が四十八カ国であるというのは少ないわけです。メートル条約の場合は加盟したら標準研究所をつくらなくてはいけませんから、国策としてきちんとしていないとなかなか入れないですね。

●日本がAPMPの議長国に

 この秋から私がAPMPの議長になり、APMPの事務局も日本(計量研究所)が引き受けることになります。加盟費もとることになりました。計量標準の国際比較等でAPMPが果たす役割は大きなものがあります。ただ、日本でもそうなんですがAPMPが今のところ任意団体ですから、各国とも予算を確保するのに非常に苦労しています。

 話があちこちに飛んだのでわかりにくかった面もあるかと思いますが、共通していえるのは従来の一極集中ではなく地域分担が非常に重要になってきていること、それぞれの分野で相互承認のための文書づくりや作業が進められているということです。相互承認の中身はなにかというと、国際比較と各機関の実力を知ること、そして地域間のレベルをあわせること、透明性・公平性の確保などです。

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 第3段階のSI化へ全力投入を 

 

−−計量法は三段階の猶予期間を設けて、取引証明に使用する単位(法定計量単位)を順次SI(国際単位系)化していますね。第一段階、第二段階はSIへの移行が完了し、残る第三段階の猶予期間は今年(九九年)の九月三十日です。十月一日以降は取引証明に使用する単位としてはこの第三段階の非SI単位は使えなくなります。第三段階に属しているのは、力、力のモーメント、圧力、応力、仕事、工率、熱量、熱伝導率、比熱容量の非SI単位ですね。

●第3段階が一番大変

 第三段階は一番大変な分野です。第二段階までは順調にSI単位への移行が完了していますが「力」や「圧力」などが第三段階として猶予期限が最後まで延びたのはそれだけ移行の困難性が予想されたからです。

 通産省は移行を促進させるパンフレットなども作成し、SI化達成へ全力をあげることにしています。(社)日本計量協会も移行促進のセミナーを開催しています。私は通産省が全国の計量行政に従事する地方自治体の職員を集めて一月二十七日に開いた全国計量行政機関連絡会議でも強調したんですが、力や圧力の移行は確かに難しい面もありますが、いずれかの時点で必ずやらなければならないことであり、大きなキャンペーンをやって移行作業を促進させる必要があります。

●SI国際文書第7版を翻訳編集中

 現在、SI単位の最新の基本文書である「国際単位系国際文書第七版」を計量研究所と(社)日本計量協会で共同翻訳編集中です。この第七版の概要については「計量研ニュースVol.47特集号」で当所の櫻井慧雄計測システム部長が解説しています。(本紙三月二十一日号にも掲載)

−−ありがとうございまいした。

(文章構成・高松宏之編集部長)

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  【用語】(登場順)

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