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2015年2月7日 NMS研究会公開討論会報告

(3050号/2015年3月29日掲載)

NMS研究会 窪田葉子

 2015年2月7日、NMS(New Manufacturing System)研究会の公開討論会が機械振興会館会議室において開催された。討論会のようす
 全体テーマを「私にとっての矢野宏」として、ゲスト発表者の講演4題、討論会参加者の5分間リレー発表および、参加者全員による総合討論の形でおこなわれた。今回のテーマは研究会メンバーが、NMS研究会主宰である矢野宏の求める「品質工学を実践すること」の総体を表すテーマとして決めたものだ。
 講演第1席は、「測れないからおもしろい」と題して、矢野を統計学の教授として電気通信大学に招へいした電気通信大学学長顧問の梶谷誠がおこなった。矢野研究室には成績が上位とは言えない学生が配属されたにもかかわらず、卒論ではしっかりした発表ができるようになり、高卒間もない技官は博士号を取るまでに成長し、「教えないことが教育」を具現していた。矢野について測れるものを測ったからといって全体が判るものではなく、測れないところに真実があり、だからこそ面白い。これは科学技術一般も同様である。
 講演第2席は、「私にとっての矢野宏−私の矢野語録から−」と題して、矢野と共同で地震の予測について研究を続けている富山高等専門学校の水谷淳之介が、矢野の言葉のうち、主として教育と教師の能力に関して特に印象が深いもの、現役の教員として心していることを紹介した。分からないことが重要であり、知識の切り売りでは学生の能力を高めることにならず、分かる(学生がその場でわかったと思う)ように教えることには否定的で、学生が理解した(と思う)かを高得点としたアンケートで教師を評価するのはレベル低下につながりかねない、教師は評論家ではなく現役の主体性を持った研究者・技術者であるべきで、10年後にも通用するものを見抜く力が必要。教師として自分も具現したいこととしていた。
 講演第3席は、「私にとっての矢野宏 −NMS研究会は『私塾』である−」と題して、NMS研究会メンバーであり、「品質工学の納得性」の研究をおこなっている日精樹脂工業(株)の常田聡が考えるNMS研究会と「適塾」(注)との類似性を発表した。自分のテーマを持ってきて塾生(メンバー)で議論する場として技術者としての主体性と責任が求められる研究会であるところが適塾に通じるところであり、矢野からは目的を明確にすることを妥協なく求められ、学ぶことの大切さを教わっている。
 講演第4席は、「私にとっての矢野宏 矢野宏の出した宿題を考えつづける」と題して、クオリティ・ディープ・スマーツ有限責任事業組合の吉澤正孝がおこなった。矢野宏の出した宿題である、品質工学は学問か?を引き続き考え、品質工学は「学」としての知識(方法、システム)は既にあるが、研究方法・方法論が未整備であり、まだ学問として成立していないとの考えを示した。さらに品質工学の知識を学の構造に合わせて整理し、技略(技術戦略)を発展させることで学問となるとの仮説も示した。
 午後の部では、研究会メンバーと一般参加の計21名による5分間リレー発表をおこなった。矢野に対する、もしくは矢野を触媒として品質工学への想いが次のように語られた。まだ研究段階の検討だが現実の製品にして胸を張りたい、結果だけでなくその経緯を考えるようにとの導きを得た、問題の存在と何とかしなければということに気づかされた、品質工学の発展・普及への使命感を感じる、人のつながりが重要、効率よく失敗することの大切さ、頑固で厳しいけれど面倒見が良い、目的の重視と広い視野からの意見、類似論文が判る創造性、田口玄一を知らない世代にとっての覗き窓、課題設定の重要性と具体的実践の重視、経路の困難さは考慮しない羅針盤、何故ということの重視を学んだ、自分を顧みるものさしである等。
 昨年に引き続き参加した東北大学未来科学技術共同研究センターの大見忠弘は、日本の製造業の復活をめざすには、パラメータ制御を強化/向上させて不良品を作らず、検査をなくして莫大な検査コストを不要とする生産技術が必要であると力説した。
 公開討論会全体では、品質工学を軸にしながらも種々の話題が討論された。
 品質工学は世のなかでまだそう受け入れられていない。研究方法論が品質工学独自である必要はないが、大学での講義がないと学問とは言えず、官庁、特に文部科学省への働きかけが必要である。品質工学に(品質管理の技能士のような)資格制度は作らないのかについては、励みになる面もあるが、堕落につながり、学問とは言えなくなるマイナス面がある。
 問題のない社会とは何か、日本が突入している超高齢化社会にどう対処するかについて、働けるうちは働かせる、定年だからといって研究を止めたりせず、生産的なことに頭や体を使う機会を維持すべき、ただし能力が無いほどしがみつく傾向にどう対処するかなど、若い人が安心できるセーフティネットの必要性が課題である。
 学生の質が落ちている。大学が補助金をとるため入学レベルを下げ、「分かるように」教えているのでは能力が上がらない。企業も人材教育の費用を削減してきたし、ベテランがリーマンショックや定年で辞めたこともあり、教育できる人材、いろいろな経験をしてきた人が減っている。一時期マニュアル化が良いこととされていたがそれではすまない。OJTにも基礎的知識は必要で、長すぎる研修は逆に自分で課題を見つける能力・意欲がなくなってくる傾向がある。
 技術課題、課題設定こそが重要であり、単なる作業としてできるようになってきたパラメータ設計だけでなく、許容差設計が重要である。改善と開発は違うが、この区別がつかない経営トップが多い。改善には貢献したが開発はあまりやってこなかった会社で開発をおこなおうとすると壁にぶつかるのではないか、その時どうするかに能力が問われる。
 動かない人も上からの業務命令であれば作業はするが、自ら課題を見つけて仕事をすることはせず、テーマが終わるとそこで終わってしまう人が多い。「義務を果たした」で終わる人は放っておき、2割―6割―2割の原則のうち、やる気のある2割だけに期待する。
 矢野によると、大学の恩師は在学当時には判らなかったが凄い人だった、研究所時代の上司も外部からは仲が悪いと思われるほど討論ができる相手であり、周りの人に支えられてやってきたとのことである。品質工学の創始者である田口との交流も含めて、矢野は品質工学を次世代に受け渡そうとしてくれており、受け取れるかどうかは次世代側の能力と努力にかかっていると感じた。
(注)適塾=蘭学者・医者として知られる緒方洪庵が江戸時代後期に大坂・船場に開いた蘭学の私塾。

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