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第209回NMS研究会報告(2015年7月)

(3081号/2015年11月15日掲載)

(株)IDAJ 山戸田武史

 2015年7月4日(土)、品質工学会会議室で第209回NMS研究会が開催された。

1、特性値シミュレーションを活用したクランクシャフトの最適設計(トヨタ自動車(株)、三宅慧)

 クランクシャフトの基本骨格設計に品質工学を活用する初の試み。以前、田口がフォードの事例で、「爆発音が入力。エンジンは化学反応」という提案をしたが、これまで実際の適用研究はなかった。本事例はエンジンの爆発荷重による打音を出力とした点にオリジナリティーがある。品質工学の適用により、今まで勘とコツでやっていた部分が明示化、定量化された。勘とコツのままでいくと会社としては成り立たなくなるかもしれない。本事例ではシミュレーションも簡素化され、L36×L12の直積実験でも10時間かからない。クランクシャフトの部分最適は、どの因子がどの影響を持つのかが明示化されるので、その知見を用いることで全体最適が可能となる。

2、論説「評価における品質工学」(ヱスケー石鹸(株)、安藤欣隆)

 大会セッションの論説。原点とは田口の発言であると考え、論説集から原点抽出をおこなった。「なぜ田口が既に主張している考えを未だに議論しなければならないのか」という大会質問に対し、安藤は、「普遍性が高いために考え方の議論にたどり着けず、学会の研究を通してようやくわかってきた」と答えた。品質工学を胡散臭いという人がいるが、その人は田口の本を読んでいるのだろうか。田口は求められれば数理的な証明を目の前でした。しかし、品質工学の目的は数理的な追及ではなく実例で使うこと。自分の実例が田口の考え方とどう繋がるのかを考えるとよい。

3、バーチャル設計を用いたシャッタ機構の設計(コニカミノルタ(株)、埴原文雄)

 主に奥澤の研究だが共同研究者の埴原が代わって報告。初期段階の機構設計の完成度を上げるためにバーチャル設計を適用した。従来のKKDH(勘と経験と度胸とハッタリ)による問題対策型設計をなくす。本事例はバーチャル時の手順を工夫し、実施時間が短く再現性のよい設計を実現した。経営や売れる商品開発に応用されると有効といえる。(株)松浦機械製作所のマーケットインの研究から、機械の売れ行きは景気という誤差因子に左右されることがわかった。売れる制御因子を把握できると強い。大会質問でのCAEとの比較は、要因効果の傾向が合えばよいという考え方ならバーチャル設計でも良い。もっとたくさん事例が出る必要がある。

4、ハミガキ剤製品開発の技術開発(ヱスケー石鹸(株)、秋元美由紀)

 ハミガキ剤ベース処方のパラメータ設計。全体を見据えた技術開発である点が、今までの適用事例と異なる。漫然としていた製品開発の目標が明確化できた。スクリーニング実験の工夫として、本来は使わない材料を入れた点が挙げられる。禁を解くとどこまで行くのかを知っておくことには意味がある。この要因効果を得るだけでも、他社品の成分調査に応用できるなど波及効果がある。

5、エキシマレーザ耐久性向上のためのパラメータ設計((株)小松製作所、細井光夫)

 主にギガフォトン(株)浅山の研究だが共同研究者の細井が代わって報告。エキシマレーザの予備電離電極の働きの評価である。利得の再現性は悪いが、実機寿命は大きく改善した。基本機能や因子の取り方にまだ改善できる余地が残っている。エキシマレーザのように使用回数で使用料金が決まるものは長寿命になるだけで利益が出るので、適用先として向いている。

6、プラズマ切断機用電極の冷却水路のパラメータ設計((株)小松製作所、細井光夫)

 主に齋尾の研究だが共同研究者の細井が代わって報告。プラズマ電極の冷却の働きを残留熱量で評価した。利得の再現性は悪いが、実機寿命は1.7倍と改善した。大会質問をヒントに基本機能を見直すことで再現性が向上した。冷却機能は温度差とし、移動する熱量が多い方がよい。既存の式をそのまま使用したのが問題で、科学的根拠があるものがよいわけではないという、よい事例である。

7、論説「マクロ視点での品質工学」(コニカミノルタ(株)、田村希志臣)

 大会セッションの論説。改めて田口ビジョンを理解し技術活動の在り方から考え、品質工学で今の仕事のやり方を再定義し、マクロ視点で取り組む能力の強化・体制の強化を図る。品質工学会員の果たす機能役割として、企業間、産官学、異分野の専門家の連携ハブの機能や、研究蓄積の活用による研究加速、支援は重要である。マクロ視点とは、ズームインズームアウトの繰り返しであり、サイエンスとアートの循環であり、野中郁次郎的なナレッジマネジメントの具体的実践である。マクロ視点から見れば、品質工学はまだ事務機や自動車産業などの一部の分野にしか適用されておらず、医学、薬学、公的機関などではほとんど使用実績がない。データ収集の困難さがさまざまな分野への適用を阻害している。適用しやすい分野がわかれば、たとえば医療事故を防ぐという点で品質工学は使えるのではないか。

8、日本企業の業績研究における単位空間の検討と企業の項目診断第2報(キヤノン(株)、吉原均)

 老舗企業をもとに単位空間を作成し、誤圧距離の大きな企業の特徴を見る。今回、データに他年度のデータを加え、近年の社会的変化の影響を見た。誤圧距離の大きな企業としてトヨタ自動車と東京電力が挙げられる。トヨタ自動車は利益剰余金の配当が大きく、東京電力は特別損失と特別利益が大きい。誤圧距離の時系列変化と項目診断からは、世のなかに合わせて変化したのか、世のなかに翻弄されただけなのかわからず、ビッグデータを解析する難しさがある。企業自身による業績予測と実際の業績を用いた解析もよいかもしれない。正しく予測できる企業がよい企業といえる。

9、当院における鼠径ヘルニアに対する治療戦略(済生会若草病院、佐藤靖郎)

 鼠径ヘルニア手術は基本的ながらも技術革新が進んでいる。内視鏡手術は機器の改善により件数が増えている。内視鏡手術は鼠径ヘルニア手術の2割ほどだが、より割合が高まると経験の浅い医師による事故の危険性が高まる。鼠径ヘルニアは手術時間が1時間程度と短く、症例も多いため、腹腔鏡手術の安全性や効率性の検討に適する。実際に2012〜2015年の446例の実データがある。このデータを用いて、稀に発生する3時間以上かかる異常な症例を予測したい。MTシステムでは計測技術の確立と良い単位空間が重要になるが、鼠径ヘルニアの手術成功率は99%、再発率は0.7%であるため、解析に適している。

10、品質工学はなぜ普及しないのか−普及のためには何が必要か(日本水環境学会、窪田葉子)

 主宰からの提案で始めた。過去の検討と方法を変え、異なる知見を得たい。アンケートではなく、ヒアリングを中心とした検討を考える。新しい技術を導入しようという人は何が違うのか。NMS研究会の参加者はよい調査対象である。向いている人の見極めをどうするか、ロジカルに解決することに気持ち良さを感じる人をどのように見つけるのか。11月の「私の研究履歴」で、自分はどうだったかを、全員に振り返ってもらうとよい。
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