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第207回NMS研究会報告(2015年5月)

(3076号/2015年10月11日掲載)

コニカミノルタ(株) 埴原文雄

 2015年5月9日(土)、品質工学会会議室で第207回研究会が開催された。

1、品質工学を考える−KYB齋藤圭介氏の問題提起に応える−(応用計測研究所、矢野宏)

 矢野はKYBの齋藤を「品質工学の理解が素晴らしく速い。勘が良いとしか思えない」と評している。同時に「勘が悪い奴に品質工学を教えても無駄、今後の普及は上位20%の優秀な人材への働きかけが重要」とも述べている。
 齋藤は品質工学会誌21巻1号で企業での品質工学の継続的な普及を述べ、企業内で苦悩する推進者への学会の支援の在り方を提案している。そのなかで、(1)膨大な情報をいかに役立てていくか?(2)企業内での品質工学普及、継続の難しさ(3)品質工学の凄さが真には理解されてはいないこと(4)MTシステムと社内の人間関係についての4項目の問題提起をしている。
 それに対して矢野は、(1)については田口の言葉を借りながら、真に品質工学を活用することの重要性を説き、(2)については品質の定義を理解すれば自ずと道は見えるという。(3)については品質工学が多くの事例では必ずしも適切には活用されていないことを憂う。(4)については人間関係の難しさ、科学と技術の混同、技術者としての覚悟、企業内での普及、継続等々の問題を、真摯に活動した者がねたみを受けたり、推進者が必ずしも最初から肯定していなかったり、学生への教育が必要なことを例にあげて応えている。
 引き続きおこなわれた議論では、(1)経営トップ層の理解(2)中間管理職の積極的な推進(3)担当者の技術的な能力の問題点を話し合ったが、壁を超えるには際立った成果を出す、やって見せることが必要かつ最重要と改めて感じさせられた。問題解決や火消しではなく、基本機能の構築、理想状態へのアプローチを是とする体制、意識醸成は簡単ではないが、継続的に粘り強く取り組むことが研究会メンバーの責務と思う。

2、裁判事例の分析等による職場のパワハラの判断基準の検討(厚生労働省、佐藤誠)

 裁判になった職場のパワハラ案件を分析し、パワハラか否か?どの程度の酷さか?等々の判断基準を検討する事例である。2002(平成14)年から2013(平成25)年までの相談件数は6600件から5万9200件と急増した。これは純粋にパワハラ自体が増えたのか、パワハラに対する世間の受け止め方が変わったのかは定かではない。厚労省におけるパワハラの定義は「業務の適正な範囲を超える精神的、身体的苦痛」であるが、受け止め方には個人差がある。よって真値は無い、言いかえれば普遍的ではなく、様々変化する相対的な基準となる。裁判事例でも客観的な基準がない「適正」が争われ、事業者側と労働者側の意見が大きく異なる。
 本件のテーマは、(1)パワハラの許容限度の検討(2)パワハラか否かの判断基準の検討の2項目が考えられるが、(1)はアンケート等でデータを収集する時間がかかるので、既に過去の裁判事例がある(2)を取り上げた。具体的には21事例の裁判のデータを10要素の項目に分解してコード化し、誤圧法で分析した。単位空間は業務の適正な範囲とし、事業者側と労働者側の誤圧の距離の平均値で評価し、「事業者側の距離<労働者側の距離」なら無罪、逆なら有罪と考え、実際の結果とほぼ一致した。それを受けて主にコード化、点数化、重み付け要否等の項目の取り扱いが議論となった。

3、QES2015評価における品質工学セッション論説(ヱスケー石鹸、安藤欣隆)

 安藤が司会を務めるQES2015大ホール壇上発表の「評価における品質工学」セッションの論説内容のレビューをおこなった。
 当該セッションには、後述のコニカミノルタ奥澤の「バーチャル設計」と、NMS研究会吉原の「企業業績研究」が含まれている。
 まず過去3年間のマクロ視点については、(1)個別ではなく、社会全体をみていく研究(2)技術開発から市場までを見通した研究の2つに大別されるとまとめている。田口は以前より言っていたが、やっとそれが認知されて本来の品質工学の目的に沿った展開が可能になった。これはメソッドからフィロソフィへの転換ともいえるが、品質工学の定義がないことがこの誤解を産んだとも考えられる。続いて評価を合理化することがバーチャル設計の発展となり、MTシステムの研究は単位空間を定義することとして論説を纏めている。

4、バーチャル設計を用いたシャッタ機構の設計(コニカミノルタ、田村希志臣)

 主に奥澤の研究だが、共同研究者の田村が代わって報告。MFP(Multi Function Printer)内の光電センサーの防汚機構へバーチャル設計を適用した事例である。評価者はプロフィールが異なる4人の設計者で、最適条件は異なるが利得は4人とも再現した。本件ではその結果を元にDR(Design Review)をおこない、合議により設計案を選択している。それにより設計グループ内の知見、意見を余さず取り入れ、納得した上で高レベルの設計をおこなうことができた。その後の実機確認でも効果が再現し、合理的かつ高度な手法で進められた。
 これに対して効果確認の比較水準の妥当性や評価者の選択、合議の要否等々の意見が出た。それらを参考にさらに改善することで、有効な設計手法として確立することが期待できる。またさらにバーチャル許容差設計への発展も期待される。

5、日本企業の業績研究における単位空間の検討と企業の項目診断 第2報(NMS研究会、吉原均)

 前報に対する主な変更点は、(1)項目数を123項目に絞った(2)単位空間に選択した企業を単位空間A:2012年単年度、単位空間B:2007〜2012年の変動とし、誤圧の距離が20以下の110社を選択した。その上で各企業の項目診断を実施した。また、事実を的確に表現することが重要と考えた。
 東京電力は東日本大震災の影響が顕著、トヨタ自動車はリーマンショックの影響が色濃いが、改めて巨大な投資家であることが見て取れた。今後は単独でなく連結財務を評価すればさらに真実・事実に近づくことができると考える。そのように突き詰めることが、品質工学のような汎用技術が専門技術に対向する術として重要と思われる。この研究の結論は日本経済での企業のスタンダードを探ることである。

6、ハミガキ剤製品開発のための技術開発(ヱスケー石鹸、秋元美由紀)

 従来は経験で設計していたこと、化学系では上流での研究事例が少ないこと、それに対して品質工学を用いてマクロ視点に基づいた技術を準備したことを報告した。品質工学を知って、きちんと設計して社会損失を低減したい、問題解決や部分最適でない製品開発をしたい、品質ではなく機能性に着目して研究開発したいと考えるようになった。
 本研究ではL72直交表での原料スクリーニング→パラメータ設計→許容差設計と進め、特性値も初期は品質だったが、レオメーターによる固さ測定と微生物耐性の機能に進化した。結果は確認実験で利得の再現が得られ、許容差設計まで完了できた。検討会メンバーからは許容差設計の一部分がパラメータ設計では?との指摘があった。

7、エンジン燃焼における壁温分布の最適化 第2報(トヨタ自動車、橘鷹伴幸)

 従来は実物確認、デバッグ体質だったが、機能を考えて開発するようになりつつある。本件のシリンダーボア壁温制御は、従来はトライアンドエラーの開発だった。それを品質工学+CAEで取り組んでいる。
 今回の結果で標示因子間の交互作用(シリンダ、シリンダ周方向の違い)が効くことがわかった。これより、(1)運転開始立ち上がりを大きくすること(2)気筒、部位間の差異を少なくすることが重要と考えて最適条件を選定したが、確認では効果は1℃程度と小さかった。そこで標示因子の感度を見ることで、SN比の評価とは異なる方法で最適化できた。初期の成果としてはまずまずで、今後進展が可能と考える。
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