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計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事寄稿・エッセー(2015年一覧)>【中村邦光】世界の科学史 古代ローマの科学(BC2〜AD4世紀頃)—科学の応用、「技術」文化の躍進—

日本計量新報 2015年5月24日 (3057号)6面掲載

世界の科学史 古代ローマの科学(BC2〜AD4世紀頃)
—科学の応用、「技術」文化の躍進—

(一社)日本計量史学会理事 中村邦光

中村邦光古代ギリシャの後の西欧における次の時代、すなわち古代ローマの時代(BC2〜AD4世紀)は、古代ギリシャの「科学の応用」すなわち「技術」という文化が人類史上に初めて登場した時代です。
 じつは、この連載の目的の1つは、現代の科学と技術の源流を探り、その流れのなかにおける問題点を明らかにするためであります。すなわち、古代ギリシャ時代の「科学」と古代ローマ時代の「技術」の特質を比較することによって、現代の「科学と技術」の問題点(倫理規範)を探ることができると思います。

1、へロンによる「古代原子論」の継承
 古代ギリシャの時代には「自然の真相を知りたい」という純粋な科学的探究心に基づいて、地球説や地平説、地動説や天動説、そして元素説や原子説など、たくさんの自然認識が創生されました。
 ところが、紀元前2世紀頃以降には「自然の真相を知りたい」という古代ギリシャ科学の栄光は幕を閉じます。古代ローマの時代には、まずは生活の「豊かさ」を追求したからです。
 しかし、幕切れは突然ではなく、科学の歴史にとっては境界的な特徴の時代が古代ローマの時代です。そして、散発的ではありますが機械論的・原子論的な考え方の人物も出現しました。その代表的な人物がアレキサンドリアのへロン(AD1世紀頃)です。
 へロンは、蒸気の力を運動に変える装置を作り、蒸気が力を持つことを立証しました。そして、空気は圧縮できるので、分散した粒子でできていると主張しました。すなわち、古代ギリシャのデモクリトスの原子論を支持したわけです。
 しかし、へロンの説は4世紀以降には関心をもたれなくなり、蒸気の力を利用して自動神像や自動扉を作り、奇跡や神の啓示を説得するために利用されただけでした。そして、この研究は約1500年後、17世紀になってから再発見されることとなります。

2、科学の応用「技術」の登場
 古代ギリシャは、基本的には海上貿易を中心として地中海沿岸に繁栄した「ポリス国家」(港町の集合:民族の多様性)でした。しかし、古代ローマは中央集権的な統一国家(面積国家)であり、ローマの人々は、政治、軍事、および土木・建築などの実利に直接結びついた「応用科学」を必要としてギリシャ科学を継承しました。すなわち、人類史上における「応用科学=技術」という文化の出現です。
 そして、いわゆる面積国家にとって、まず問題になるのは「治山・治水」と、その土地に根付いた生活を守るための「国防」の問題です。すなわち、治山・治水と国防のための必要は、築城や上下水道など、土木・建築を中心とする技術開発を飛躍的に促進させました。そして、生活の「豊かさ」を求めて、至福な人生を追及しようとしたのが古代ローマの人々でした。
 古代ローマの人々は、古代ギリシャ科学のなか中の生活に必要な部分を「百科全書的に利用した」といえます。「百科全書的」ということは、必要なときに必要な部分を利用するという意味であって、体系的ではなく断片的な知識であるという意味です。すなわち「真理探究」という意味での科学的発見は、ほとんどありませんでした。たとえば、弓矢は狩や戦いのために「使う」対象であって、矢はどうして飛ぶのだろうなどと「考える」対象ではありませんでした。

3、古代ローマの科学の特質と現代批判
 ここで、私は古代ローマの時代について、さらに批判的に関心をもつこととしました。というのは、古代ローマの時代の特質を詮索することによって、現代の科学と技術を批判的に考え直してみることができると思ったからです。
 たとえば、現代人は調理をすることも、情報を入手することも簡単になりました。電子レンジやパソコンが開発されたからです。しかし、毎日これを使いこなしている人々も「どのようにできているのか」と、その原理や構造に興味・関心・好奇心をもつことがあるでしょうか。「なぜ?」とか「どうして?」という無目的で純粋な興味・関心・好奇心に基づく「科学的な思考」をするゆとりのある生活習慣を持ち合わせているかどうかということです。
 すなわち、古代ギリシャと古代ローマは、特に「科学」か「技術」かどちらかを重視したわけです。科学と技術の相互発展が理想です。しかし、歴史的にはいずれかに偏重されていました。
 そういう意味では、古代ローマの時代には、技術開発では多大な成果を挙げていますが、科学的には「停滞・退歩の時代」ということができます。
 ここで、現代批判(自己批判)の意味で、古代ギリシャ時代と古代ローマ時代の特質を比較してみましょう。まず、古代ギリシャの人々は、実利を超えてより根本的な問題に対する洞察力と思索能力を示した点を評価するものであり、純粋な学問への関心「真理探究」が特徴付けられます。それに対して、古代ローマの人々の多くは、もっぱら生活に密着した応用科学(技術)に関心を持った点、保守的な実利主義に特徴づけられます。
【参考文献】
1、中村邦光、板倉聖宣『日本における近代科学の形成過程』多賀出版、2001年
2、中村邦光『江戸科学史話』創風社、2007年
3、中村邦光『世界科学史話』創風社、2008年(日本図書館協会選定図書)
4、中村邦光,溝口元『科学技術の歴史:人間社会の技術倫理をさぐる』アイ・ケイコーポレーション,2002年(改訂2版)
(日本大学名誉教授)


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