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日本計量新報 2017年11月5日 (3170号)

計測のつじつまが連鎖しているのがトレーサビリティだ

最高級セダンは外装の鉄板からして特別仕立てである。表面のなめらかさと塗色の輝きに影響するのが鉄板である。車種ごとに外装の鉄板が違うのである。鉄の硬さと加工性などが考慮されて鉄板が決まる。1991年の8月に発売された2代目シーマのFY32型の開発の模様をテレビが放映していたときのシーンが外装の美しさを実現するための鉄板の選択だった。

 設計統括は楠見記久。乗車定員5人、4ドアセダンでエンジンはV8 4・1L VH41DEとV6 3L VG30DETで、全長4930mm、全幅1780mm、全高1420mm(1435mm)、ホイールベース2815mm、車両重量1740kg(4・1 タイプ・リミテッド)の仕様。

 製鉄会社の工場幹部に聞くと車種ごとに要求される鉄板があるのだという。厚さ・薄さ、表面のなめらかさ、加工性のことなど。車の外装の鉄板は皆同じだと思っている者には意外なことだが、シーマ開発のドキュメンタリー番組でこのことが取り上げられていた。

 ホンダではアルミ外装のスポーツカーをつくっていた。アルミといっても性質はさまざまある。ボンネットだって両端が厚くて中央部が薄くなっているかもしれない。高級スポーツサイクルのアルミフレームは三段階に段差をつけて加工されている。自動車会社ほかが素材会社に求めることは複雑にして多岐に及ぶ。その求めが技術の現状を超えた無理難題であることも推察される。

 ある自動車メーカーはガラス製の精密温度計に0・01℃の精密さを要求した。その温度計は使われていなかった。何かのおりに検査をしたら0・01℃の精密さがなかったので製造会社を呼び出して叱責した。要求される精密さは0・1℃であった。0・1℃の精密さの温度計を納品したら偶然にもその温度計は0・01℃の精密さを実現していた。だから次ぎに納める品も同じ精密さのものにしろと、納入業者を呼びつけた。基準器の精密さを求めながら実際には1℃の精密さで足りた。「基準器を床の間に据えて置き」という計量川柳がそのままに当てはまる事例である。

 ステアリング周りはロッド生産されていてその段階で動作の確認がされる。普通の運転者だってハンドル操作のがたつきなどがあればすぐわかる。ロッドを組み立てて、車輌に組み付けて、動作を確認する。納車前の整備作業でもハンドル操作の確認をする。自家用車を運転するときに始業点検が道路運送車両法で義務として定められているがそれをする人は希である。規則に従わなかったから製造中止だのリコールだということになって多大の出費となる。コストや生産性ということでは最悪の事態だ。

 自動車会社が製鉄会社など素材メーカーに要求する内容が技術の現状と遊離して過大ではないのか。品質保証の国際規格認証に関して審査員の知識不足のために現実を無視した計測要求を強いるという事実がある。できないのであれば計測を誤魔化す。無理を強いていることを知っていれば無理が通らないことも覚悟する。求めに合っていることにすればとりあえずは双方に都合がよい。計測値などのデータのごまかしの背景にこのようなことがあるのではないか。機械の破損や故障の原因もここに潜む。

 目的に沿った計測のつじつまが果てしなく連鎖しているのが計測のトレーサビリティである。取り上げられている自動車会社と製鉄会社に目的実現としてのトレーサビリティ思想があったかを疑う。計測にとって大事なことは事実をそのままに受け止めることだ。嘘をつかないという考えを貫徹することでもある。

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