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日本計量新報 2016年11月6日 (3125号)

質量の単位キログラムの定義の変更の2つの案とその動向

質量標準の精密度が向上していて国際キログラム原器のそれを超える状態にある。質量の単位であるキログラムは国際キログラム原器の質量と定義されている。その国際キログラム原器の質量は新しい技術によって実現できる質量標準に劣る状況がある。国際キログラム原器は1988年に実施された第3回定期校正によって60マイクログラム質量が減少していた。国際キログラム原器の質量が1キログラムであると定義されているから1キログラムは1889年に白金90パーセント、イリジュウム10パーセントの合金によって実現されていて、質量1キログラムよりも60マイクログラム少ない質量が1キログラムになってしまったのである。キログラム副原器と比較した質量の差は1億分の06程度であるけれども原器の質量が変動する不都合がつきまとう。

このような不都合が計測の実際場面で生じることは少なかったであろうが物理学の分野ではこれにともなう質量や力の大きさの変更をして対応することはないであろう。質量の単位1キログラムが60マイクログラムも減ずれば太陽の質量の変更に結び付くということでは不都合が多すぎる。国際キログラム原器の質量の1キログラムとその変化はそれはそれとして取り扱わなくては都合がわるい。

キログラムの定義の改定案はその実現の方法の発達と連動している。改定案は2つあって炭素原子の質量と結び付くアボガドロ定数によって規定することと、光子のエネルギーと結び付く物体の質量によって規定する方法が提示されている。

アボガドロ定数とプランク定数はある関係式で表現されるのでアボガドロ定数によって質量を決めることにしておくと質量標準でもある1キログラムの実現は国際キログラム原器という金属の物体に依拠しなくてよくなる。濃縮された純度を上げたシリコン球に連動するアボガドロ定数と事実上等価として評価できるプランク定数を介在させて質量を現示でき、そこで実現できる質量の精密さは国際キログラム原器の精密さをこえ、再現性が確保される。

キログラムをプランク定数によって定義することになり、プランク定数が決まればプランク定数からキログラムを実現できる。電圧や抵抗はプランク定数によって記述することができる。このため質量はプランク定数を用いて電気量としても表現できる。プランク定数は光子のエネルギーを記述する定数でもある。アインシュタインのエネルギーと質量と光の関係式Emc2によって質量とエネルギーが関係づけられるので光のエネルギーから質量を現示することが可能になる。それはプランク定数を基準にしてさまざまな物理現象を介して質量を実現できることが論理上成立することとなる。

質量の単位キログラムの定義をプランク定数に依拠する内容に変更することによって、現在のように国際キログラム原器の質量が変動する不都合から解放される。定義の変更によってプランク定数を元にした精密度の高い質量の標準を実現することに邁進することができる。

 その昔、国際メートル原器の長さによって1メートルが定義され、その後クリプトンランプに変わり、さらに光の速さで定義されるようになった。現示の方法はレーザー干渉計を用いている。同じことが質量の単位キログラムの定義変更によって実現する。天びんによる質量測定の限界を超えて、タンパク質の質量や水素原子の質量測定の領域に踏み込むことができるかもしれない。

一般の科学技術と工業分野での要求質量の精密さは01マイクログラムどまりであり、それよりも粗い領域であるから現行のトレーサビリティ制度による標準の受け渡しで満足される。

 

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