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日本計量新報 2014年2月23日 (3000号)

オリンピックと計測の厳密性とメダルの行方

日本においてはメダルを取れそうだと思わせる競技だけがオリンピックの競技である。勝負はしてみて下駄を履くまでわからない。スピードスケート、フィギュアスケート、スキージャンプ、スノーボードほか、メダルがらみの競技でないと話題にならない。話題になったからといって、期待どおりの結果になることもあれば、はずれることもあり、伏兵の活躍で驚かされるのは嬉しいことだ。上村愛子のあの滑りはメダルであると思うが審判の点数は辛かった。スキージャンプでは向かい風で揚力が強く働く条件と追い風でそれが少ない状態で飛距離などを比べることになるので、厳密な意味での公正さは確保されていない。
 計時によって順位を決めるスピードスケートやスキー滑降などは、滑る順位で路面の状態が異なり、風が吹いたり、雪が舞ったり、霧が出たりで、同一条件での比較にはならない。水泳競技においては寸部の違いなくつくったプールが水を満たすと中央部分は撓むので、端よりは長くなり、その長くなる度合いは順位を争う時間の差よりも大きいと、時計会社の人が公式の場で述べている。測られた時間が競技する条件の違いを内包しているということでの矛盾と順位のつけかたとの間に矛盾がある。
 計測を完全に同一の条件で実施できることが理想であるが、これは子細にみていくと難しい。日本のキログラム原器の測定をするにさいしても、その洗浄をするスパッタリングをしたあとで、少しすると原器の表面に有機物が付着していくので、時間の経過とともに質量に差がでる。地球重力値は場所ごとに異なっており、規定された重力値でも実際に測定するその場所がその重力値であるとは限らない。磁気の影響、風の影響、温度の影響ほかがあり、これらのことを補正する方法があればよいが補正しきれない。それでも条件を整えて、補正をすることによって、計測器の精密さを比較することになる。これらのことを織り込んだ計測の在り方、方法についての規定や考え方が「不確かさ」である。補正不能な条件では計測は成立しない。空気の流れがつよい場所では質量は精密に測定できない。条件が整えばはてしなく精密な測定ができる質量計でも、風がある現場では使用不能である。
 原発の事故が発生すると取り付けられていた計測器の一部が破損したとか、機能しなかったということを、原発の運転者は口にする。それはその通りであるかも知れないが、故障するような計測器を問答無用で発注したのは当の本人ではないか。打っても蹴っても故障しない計測器を用意し、それで実現できる計測によって運転することを考えるのがよい。その予備として精密に測ることができる計測器も設置する。どっちが予備であるかは別にして、事故が起きたら大惨事になる原発の設計と運転と運営については、計測と計測機器の側に立つと全てが駄目な状態である。これらの背景には日本人の物事に取り組む基本精神が崩れていることに由来すると思われる。

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