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日本計量新報 2013年5月19日 (2964号)

センサー信号を巧みに処理して新しい価値を生み出す

三陸と東日本の海岸におしよせた津波による被害のようすを衛星カメラは克明に記録していた。日本国政府と関係の役所が被害状況の掌握に手間取っているそのときにランドサットの衛星カメラとそれが記録した映像はインターネット上に情報として掲載されていたのである。自分たちでつくった国土監視システムを当の本人たちが忘れてしまっているという事態がここにあったのであるから、人は頼りにならない。
 北朝鮮の核施設やミサイル基地などのようすは同じように米国の衛星カメラがとらえていて、施設の変化を米国政府と米軍は子細に観察していることはよく知られている。世界の農作物の生育のようすも同じように観察されていて、農産物を扱う商社はこれと連動して買い付けと販売を操作する。北朝鮮の農業のようすを米軍は手に取るように把握していることは当然である。森林の消滅と砂漠化、中国大陸においてはそれによって黄砂の発生が激甚になり日本などほかの国に害を及ぼしているのである。
 宇宙空間に打ち上げられて地球表面を観察している写真装置の威力は被災直後の東日本の海岸部の映像によって物語られている。GPS装置と地上を細密に撮影する写真装置との組み合わせがもたらす威力である。写真装置の撮像素子の発達は凄い。パソコンの性能発展はムーアの法則が当てはまっており、撮像素子の発展はムーアの法則そのままであるから、短時間に一気に性能を向上させた。撮像素子のCCDセンサーやCMOSセンサーは製造技術の発達によって民生用においても「35ミリフイルム」のサイズを容易につくれるようになり、同時に再密度も増している。撮像素子にはぼんやりした映像でたどり着くのであるが、実際の画像に近いように加工するのが画像処理エンジンなどとよばれるソフトウエアである。このソフトウエアはコンピュータチップの性能向上と連動するので、ここでもムーアの法則が働く。センサーが感じた信号をさまざまに処理して利用するのがコンピュータチップに盛り込まれたソフトウエアである。計量計測の世界でもセンサーからの単純な信号をそれと相関関係にある別の量などに返還して新しい価値として製品をつくりだしている。
 写真装置は撮像素子に飛び込む像の明暗や色の状態をセンサーによって巧みに処理する。焦点あわせは画面の全体のうちから幾つもの要素を考慮して必要なところを選ぶ。センサーはさまざまに発達しており、ここからもたらされる信号をコンピュータチップなどで高度な処理をする。目的にあわせてセンサーを用い、演算処理することによってさまざまな機械装置が新しくできている。ハカリなどはロードセルという大きくて曖昧で無骨なセンサーが発展して、質量を細密に感ずることができるようになり、このセンサーの汎用品の価格は、登場時とは比較にならないほど下がった。分銅と測定対象の釣り合いをヤジロベーの傾きによって確認するという計測方法であった質量測定は、写真装置の発展と同じように自動化の経緯をたどり、民生用と産業用に新たな用途を切り開いている。ロードセルなどの多くの質量センサーはナイフエッジ方式ではなく弾性支点を原理とする。この弾性支点の理論をつくりだしたのが日本人の科学者である。基礎の技術と応用の技術と双方の連携によって新しい製品ができてきて、人の世を変化させる。

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