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日本計量新報 2012年7月22日 (2926号)

科学と技術と計測と品質工学の比較対照

科学と技術と計測という用語を3つならべてその比較をする。この用語を大辞泉はつぎのように説明する。科学とは、一定の目的・方法のもとに種々の事象を研究する認識活動。また、その成果としての体系的知識。研究対象または研究方法のうえで、自然科学・社会科学・人文科学などに分類される。技術とは、物事を取り扱ったり処理したりする際の方法や手段。また、それを行うわざ。あるいは、科学の研究成果を生かして人間生活に役立たせる方法。そして計測とは、器械を使って、数・量・重さ・長さなどをはかること。ついでに計量とは、重量や分量をはかること。計測を別の辞書は、日本工業規格(JIS(ジス))の「計測用語」によれば、計測とは「なんらかの目的をもって、事物を量的にとらえるための方法、手段を考究し、実施し、その結果を用いること」としている。

 事象を研究する認識活動が科学であり、人間生活に役立たせる方法が技術である。計量と計測は数量をはかることである。純粋な意味での計量と計測は、科学でも技術でもなく、ただモノをはかることである。科学が物事の認識の活動であり、それを人の生活に役立たせるのが技術あり、この科学と技術が成立する要素として計量と計測が介在する。人が計測をした痕跡のもっとも古いこととして、月の満ち欠けを内容とするその運行を動物の骨に刻んだ事例があげられる。これは事象の認識活動であるから人の科学の痕跡の一番古い事例になる。そして骨に刻まれた月の運行を記録した道具は人の生活に役立つための技術でもある。骨に刻まれた区割りされた引っ掻き傷は計測の確かな痕跡である。道具ということに関しては、石器がその最初のものである。

 計測することが人の生活に役立つことにつながる方法と組み合わされていれば、それは技術に分類される。計測は物事の認識活動に役立つように利用される。そして計測は必ずしも計測器という形態と連動しないものの、実際には計測器を用いて計測される。計測器は、それが事象の認識のための要素としての働きをし、また人の生活に役立つように機能するから、これは大別すれば技術の領域に属する。科学研究に用いられる計測器があり、技術を実現するための構成要素としての計測器がある。そのようなことから、計測は科学であると言える。また計測は技術であるとも言える。禅問答に似た言い回しをしているのは、計測と計測機器のことを少し深く考えたいからである。

 技術は人への役立ちに応じてお金を稼ぎ出すという内容を含む。科学は技術を通じて人の役に立つとはいうものの、直接にはお金を稼ぎ出すことはしないで、逆にお金を使う。道具は人の手の延長という概念でとらえられてもいる。文明批評家でメディア理論で知られるマーシャル・マクルーハンは、電子技術は人の神経系の延長であると考える。計測技術は、機械仕掛けを基本としていながらもこの仕掛けを電子によって処理するようになっている。大きな形をした大がかりな仕掛けが、小さな形に移行している。そしてまた神経系の延長のような計測技術が発展している。体重を計ることは健康を計ることでもある。健康を維持・増進することが計測の目的に転化して、さまざまな計測器が生み出される。人に役立つのが技術であり、計測と計測器に関する技術は人に役立つためにあるから、計測は工学の分野に属し、工学理論として体系化されている。品質工学という工学理論があり、発展している。解る者にはわかり、いくら学んでも解らないという難しさが指摘されるのが品質工学である。使える技術理論そして使える技術手法を沢山つくりだしていくことが求められるのが品質工学である。計測技術者が品質工学に懸命に取り組んでいる状況をみるとき、計測技術と品質工学が融合して利用性と利便性が増大することを夢見る。

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