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日本計量新報 2011年10月23日 (2890号)

放射線測定は生命に関わる=計量法で規制するべき

計量法の目的とは何か。
 他の法律同様、大目的には経済とか文化とか国民福祉といった言葉が冠されるが、要は適正な計量の実施の確保である。
 その構造は大きく二つに分かれる。一つは計量単位を定めて単位ごとの計量標準を世の中に供給すること。もう一つは、取引と証明を含めて計量が適正に実施されるための規制を行い、計量の正しさを求めること。取引とは、有償無償を問わず、物または役務の給付を目的とする業務上の行為であり、これに対し計量法は規制的、取締的に関与する。証明とは、公に、または業務上、他人に一定の事実が真実である旨を表明することである。例えば土地取引にかかわって面積を確認する行為は、計量法における証明であり、この分野にも計量法は規制的に関与している。
 具体的な規制の内容は、取引や証明にあたって、計量法によって定めた特定計量器によって計量することを求めるというものである。実際には、特定計量器が定められていない分野の計量においても取引や証明用の計量が広く行われているが、そうした分野に関しては、正しく計る義務だけが求められる。計量法が直接的に規制できるのは、特定計量器が定められている計量の分野の取引と証明のみである。

 原発事故によって発生した放射線量の測定は、多くの場合証明行為に該当する。しかし、測定に使用する放射線測定器は、特定計量器に指定されていない。したがって、東電福島第一原子力発電所事故にともなって発生した放射線量の測定は、現状では計量法が直接的に規制する計量証明に該当しない。
 
 計量法が、多岐に亘る計量の分野から特定計量器を定めて、直接規制に関与するにあたっては、「国民の生命と財産に強く関わる」という理屈が用いられている。その蓋然性が高いことを基準として指定したため、電気・ガス・水道やガソリン、ハカリを用いた取引や証明の計量などが規制対象になっている。環境分野では振動や騒音測定の証明分野や、水質や大気などの濃度測定分野に規制を設けている。
 そこで問題となるのが、放射線量測定である。放射線量の測定結果が生命と財産に大きな影響を与えることは、今回の事故からも明らかだ。にもかかわらず、計量法の規制対象外であることは、(原発事故が「不測の事態」であったにせよ)不統一の感がぬぐえない。
 
 現在実施されている放射線量の測定結果には、疑義の生じる余地が大きい。測定に関しては、放射線量を確実に測定できる精度の測定器が用いられているのか、サンプリングなどが適正で統一的になされて測定が実施されているのか、測定者に測定能力が備わっているのか、など考慮すべき事柄がある。

 国民生活センターが中国製の1万円以上10万円以下の放射線測定器9機種を購入して性能テストを行った。結果は、価格の高低にかかわらずテストした全機種において相対標準偏差(誤差)が30%を超えていた。9機種とも0・06μSv/h以下の低線量を正確に測定することができなかった。検査しなかった他の機種にしても、同様に信頼性に欠けるが恐れがある。
 放射線量の測定の確かさ、言い換えれば放射線量の信頼性確保のために、社会即ち国が、計量法を始めとした法整備を構築すべき状況が出現している。もちろん、法整備には時間を要するが、その前段階として、法の手直しなしに緊急に行えるような、適正計量実施を確保する条件を検討するべきである。

 測定とその結果への信頼を確保するために、計量関係者は官民の壁を越えて知識を集結させ、放射線量測定における信頼性を保証する制度をつくるべきである。  

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