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日本計量新報 2011年6月5日 (2872号)

被災地をよく見て、被災地の声を聞くことが求められる

政治学者で米国コロンビア大学教授のジェラルド・カーティス氏が、5月上旬に岩手県と宮城県の沿岸の街を訪れて、被災した人々から話を聞いて歩いた。その時の感想を以下のように述べた。
  身内をなくし、家が流され、すべてが津波に吸い込まれたのに、品位と勇気をもちづづける彼らの姿に感動と悲しみを覚え、岩手と宮城の避難所で話を聞いているうちに、政争を繰り返している永田町にだんだんと腹が立ってきた。首相は、復興構想会議の役割は国民の考えを吸い上げて復興のコンセプトをつくることだと説明するが、いま必要なのはスピードと決断だ。権限とお金を地方自治体に渡す。そんなリスクを恐れない決断が、政治の仕事ではないか。東北の悲劇は日本を変える機会になりえる。だが、大胆な政策を迅速に打ち出さないとその機会を失う。今のままでは東北の復興が遅れるだけではなく、日本全体の衰退を加速しかねない。
 感動と悲しみ、それに怒りが入り交じった、複雑で混乱した気持ちになるというのは、現地を訪れて被災者と被災地の状況を見てきた者に共通する感想であると思う。同氏は、政治家は2、3日でいいから被災地に泊まり込んで生の話を聞いてほしいとも述べている。
  復興の任にあたる人に求められるのは、現地の状況を直に見て、現地の人々の声を直に聞いて、現地の状況をよく分かることである。首相官邸や国会議事堂や政府機関の会議場にいて議論をしているだけでは間違った対応をしてしまう。政府と中央官庁と官僚たちの行動が遅れているのは、現地のことがよく分からないからである。
 被災した人々は多くの不安を抱えている。働く場を失い金銭的な不安を抱えて、仮設住宅に入居する見通しもたたない人も多い。被災地に数日間でも滞在して避難者の塗炭の苦しみに寄り添えば、政府の行動の遅さに驚愕して悲しみは倍加し、やり場のない怒りにもだえることになる。何故こうなるのかといえば、やはり国の政策を決める人々、政策を実行する人々が現地の状況を知らず、被災者の感情が分からないからである。

 東日本大震災は、自動車産業の大減産など日本経済に大きな影響を与えている。被災地には日本の産業と経済に深く組み込まれた工場、企業があり、三陸の漁業もその一つである。津波被害と原発被害によって、被災後の上場企業の利益は3割減少している。自動車産業も復旧を果たすのは年末になりそうだし、その間の日本経済の痛手は言い尽くせないほど大きいものである。
 そうした状況の中で、三陸地方の経済は実際には動いていない。大きな産業である漁業にしても、復旧がほとんど進んでいない。漁は海辺でやるものだから、ともかく港を復旧し、漁船を用意し、漁業活動を再始動させなくてはならない。漁港を拠点ごとに集約するなどの議論はその先のことである。高台に住宅をつくるのも、高台に避難できる物的態勢をつくるのも先でよい。生身の人が生きていて仕事をする意欲があるのに、その支援ができないのでは政治が泣くし、行政も存在の意味を持たない。
 東日本大震災によって壊滅的な打撃を受けた三陸地方の漁業とその他の産業の復興は、この地の人々のためだけではなく、日本の復興につながるものである。そのためにも現地の状況を直に見て、現地の人々の声を直に聞くことが求められる。

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