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日本計量新報 2011年4月17日 (2866号)

原子力発電が無ければ電力が3割不足する日本の事情

東北地方太平洋沖地震によって、日本の原子力発電の施設や技術の不備があぶり出された。原子力発電の新規建設は、向こう10年は困難が予想される。現在稼働している原子力発電所についても、運転停止を含めた総見直し論が多く出されることが予測される。
  日本におけるエネルギー政策は、技術や社会状況に合わせて時代と共に変化してきた。原子力発電も、日本初の商業用原子力発電所が誕生してから50年に満たない。「黒部の太陽」の黒部ダム建設のころには、原子力発電はまだ考えられていなかった。世紀の大事業ともいえる黒部ダムは、多くの犠牲者と多額の費用を投じて建設された。しかし、その発電量を東京電力福島第一原子力発電所の6号機と比較すると、約3分の1基程度しか生産できない。
 黒部ダムに代表される水力発電は、発電量に見合わない高額な建設費用がかかるうえ、水そのものの不足が稼働の壁となる。飲料用、農業用、工業用などの用途を差し引くと、発電用に使用できる水の量は年間を通して安定せず、不足しがちである。原子力発電であれば、発電燃料の安定的な供給が確保され、そうした不安材料がない。そのうえ少ない費用で大きな発電ができるため、国は原子力発電を推奨し電力会社に発電所建設を実質上割り当ててきた。こうした事情のもと、黒部ダム建設以降に建設された発電用ダムは数えるほどで、ダムをつくっても発電に利用されていない所もある。

 人が原子力を制御できるのかどうかと問われれば「現在の技術レベルでは制御は十分でないが、何とか運転できる」というのが実際のところであろう。しかも、前提として原子力発電所が地震も津波もないところに立地して、台風や飛行機の墜落や火事などの人的ミスを含めた外的影響を受けないこと、という条件が付く。
  東京電力第一福島原子力発電所は、地震による大津波によってさまざまな関連設備の機能が停止し、運転停止したあとの燃料棒からの発熱を抑えることができなくなった結果、建屋が水素の爆発で吹き飛んた。原子炉の破損により、人の健康に影響するほどの放射線を外部に撒き散らすこととなった。原子力発電所周辺の住民は長期にわたって遠くに避難することを余儀なくさせられている。東京電力福島第一原子力発電所が閉鎖されることはほぼ確実であり、分厚いコンクリートで固めるなど、廃炉作業が進められることになる。周辺の町の住民は、町を捨てなくてはならないかもしれない。

 東京電力ほかの電力会社は、対外的に「原子力発電は安全にできており、発電所に事故がおきる心配はない」と説明してきた。地元住民も、そうであることを願うあまり、原子力発電は安全であると決めてしまっていた部分があることも否定できない。物事を自分にとって都合が良いように信じて決めてしまうと、対処が単純で一見うまくいく。地震に設備が耐えうるか。津波に設備が耐えうるか。緊急停止のための処置と設備は万全なのか。ジェット戦闘機の墜落にも耐えうるか……といった質問項目を立てると、全てに対して否(ノー)の答えが出てしまう。要するに原子力発電の実際の安全を不問にして、安全であると決めてしまっていたのである。
  実際には、政府も電力会社も原子力発電の安全運転のことをまともに研究してこなかったのは明らかである。地震のあとの15メートルの津波によって、冷却水を循環させるための緊急用のディーゼル発電機が機能停止したことがその典型的な事例である。津波に襲われる位置に設置していたのだから、緊急や安全のことなど考えていない証拠になる。
 建物の構造にしても、安全対策が不十分であったと言わざるを得ない。東京電力福島第一原子力発電所は、原子炉に「五重の障壁」を設け安全性を説いていたが、原子炉建屋の一番外側にある鉄筋コンクリートの外壁は、厚さ1メートル程度。伝え聞くところによれば、フランスの原子力発電所の外壁は7メートルほどの厚みをもって造られているという。大砲から守られるトーチカのことを考えたら、そのぐらいの厚みがあってもよいであろう。テロの脅威から原子力発電所を保護して安全を確保するためにはそのぐらいのことをしてもよい。その程度のコンクリートの量で本当に安全を確保できるなら安いものである。

 日本は水の国であっても、その水を発電に用いるための要件を欠いてしまっている。日本の川は、発電をしない方式のダムによって埋め尽くされてしまったからである。
 原子力発電は年間総発電量に占める比率を3割ほどに上昇させており、近年はさらに推し進める体制になっていたのだから、急な方向転換は実質上は難しい。安全無害な原子力発電方式の確立が望まれるが、実現したとしても、原子力発電所建設を受け入れる地方公共団体とその住民は、向こう10年はでてこないであろう。
 このような状況を考えると、我が国のエネルギー政策は新たな方向へ向かう局面を迎えたといえる。原子力発電の不備に伴う電力不足を補うため、今後は他の発電エネルギーの比率をあげることが必要となる。当面のところは、火力発電所が増設されることになる。その間、火力発電にともなう二酸化炭素の発生の問題は棚上げにしなければならない。水力を利用するための発電技術の開発も求められる。太陽光発電の開発は進むのか。風力発電は効率に耐えうるのか。地熱発電、潮汐発電、河川の流れで水車を回す発電方式もある。
 発電はエネルギーを創出する社会の基盤である。今後どのようなエネルギー政策に向かうにしろ、我々は自国の電力が不足していることを認識しながら大切に使用せねばならない。

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