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日本計量新報 2010年3月7日 (2812号)

複雑化対応技術としての品質工学

自動車は、走る、曲がる、停まるという要素を織り込んだ道具である。人は、車が走れる、曲がれる、停まれるということに素朴な驚きを持っているうちは、自動車を道具として御することができる。怖いのは、それを当然と思ってしまったときだ。
 玉突き事故は、車間距離の保持ができなかった結果として起こる。カーブを曲がりきれないのは、速度と遠心力の関係を心得ない運転者の操縦の誤りによる。加速と減速はエンジンや車の特性としてとらえて、これに対応しなければならない。前照灯を点けると発電費がかかると思い違いして、暗くなるまで点灯しない運転者が多い。自動車は、エンジンが回す発電機によって灯りをともすので発電費はガソリン代としては僅かであり、無視してよい。点灯せず走ることで生じる危険と比較すれば、ランプの寿命が短くなるなどの考えは論外である。
 自動車はそもそも速度がもたらす快適さのなかに危険を多く含んでいる機械である。自動車を安全で快適な機械にするには、人の側がきちんと意識を持っていなければならない。
 今の自動車はコンピュータで動いているといってもよい。エンジンもブレーキもハンドルもコンピュータで制御されている。人はそうした自動車のハンドルを握って、アクセルレバーを踏んだり、ブレーキを操作したりするのである。機械と人が一つの組織体として機能するのが自動車であり、それはマン・マシン・システムでもある。自動車の安全は、人が関わる要素が大きいことを、冷静になって考えなくてはならない。
 カースタントマンとして映画の撮影や安全運転の奨励の仕事をしている人が「日本の運転者は他の者への優しさが足りなすぎる」と指摘したが、常識や良識ある人は全くそのとおりと思うことであろう。
 一方、最近では人の側の誤った行動を自動車が補う仕組みが求められるようになった。
 接近運転が起こり始めるとそれに対応して必要な車間距離を保つ、速度とハンドルの切れ角の関係や道路の広さに対応して速度が制御されるなど、人の側の誤りを機械としての自動車が補正する。
 GPSは自動車に対して速度、道幅その他の情報を送り出し、道路に備え付けた制御装置と自動車が通信して速度その他を制御して安全・快適な自動車運転を実現する。ここで発生する情報は多くの場合計測情報である。
 安全面を強化するための要求に加え、環境面や顧客からの経済性向上など自動車に対する要求は厳しくなる一方である。これらに対応するため、自動車の製造の分野はコンピュータ要素と機械要素を組み合わせた複雑な様相となっている。設計の複雑化という状態に対応することは簡単ではない。
 東大ものづくり経営研究センター長で東大教授の藤本隆宏氏は、2010年2月9日にトヨタがプリウスなど4車種のリコールを国土交通省に届け出たことに関連して新聞へ寄稿している。藤本氏はこのなかで、設計複雑化を「魔物」としてとらえ、「日本の自動車企業や部品企業は、設計簡素化(モジュラー化)、開発能力増強、デジタル開発、品質工学、自動制御、品質管理、購買管理などを総動員(中略)した結果、開発速度や開発生産性で世界をリードした」「しかし、こうした能力構築努力をもってしても、この魔物は押さえ込めなかった」(朝日新聞2010年2月12日付け朝刊)と述べている。
 力不足との指摘ではあるが、ここで注目するのは、品質工学が自動制御、品質管理といった技術と並列に扱われていることである。複雑化に対応するための重要な手段の一つとして品質工学が認知されてきたことを示すものであろう。
 品質工学の定義は簡単ではないが、品質工学会のWEBサイトでは「高品質と高生産性を同時に実現するための具体的な技術的方法論として,田口玄一博士によって創始されたのが品質工学です。その中心的な方法は機能性の評価とその改善方法です」と説明しているので、これをそのまま紹介しておきたい。

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