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日本計量新報 2009年12月13日 (2801号)

地方公共団体は計量行政実施の義務と責任を投げ捨ててはならない

計量の単位を定め、これに基づいて計量器の検定や検査を行う。適正な計量の実施を確保するための社会制度としての計量制度は、洋の東西を問わず、国と地方公共団体が厳正に実施しており、こうした社会基盤はどのような状況にあっても揺るぎないものでなくてはならない。
 しかし、日本にはハカリの定期検査を計量協会や民間企業に実施させることができる指定定期検査機関制度があり、この運用が度を越していると思えるほど野放図に行われている事例が少なくない。
 ハカリの定期検査の実施は、検査手数料の収入でまかなうことができない事情であるから、収支の差額分を地方公共団体が補填することによってハカリの指定定期検査機関制度が成立する。ハカリの指定定期検査機関に計量協会などを指定して、その県が実施すべきハカリの定期検査をすべてそうした団体に移してしまうと、県当局(計量検定所など)は、ハカリの定期検査実施の能力者と所定の人員との確保を放棄してしまっているのと同じことになる。ハカリの定期検査を民間に実施させる指定定期検査機関制度を利用することは、後戻りすることができない危険な選択である。選択する以上は、予算措置を含む運営のための責任を県当局がしっかり持ち続けなくてはならない。
 一方、ハカリの定期検査機関として指定を受けた民間の側に能力があるかというと、幾つかの県ほかの指定定期検査機関に指定された団体や企業の様子を観察する限り、決して十分とは言えない。計量行政の重要な仕事の一つであるハカリの定期検査実施に関する業務の内容を、理解し、運営する能力を持たない団体役員や事務局職員も多い。計量行政経験を通じて培った行政職員や、その部門の責任者との能力比較をすると、行政処分権限のありなしなどを考慮したとしても、その差は大きい。
 指定を受けた側が緊張感をゆるめると、とんでもないことが起こる。駄目な事務局責任者と団体役員の組み合わせができると、役所に物をいわなくなる。指定定期検査機関の運営の不足分の経費をきっちりと埋め合わせる費用の補填に関する実質的な権限は県当局にゆだねられているため、それ以上は削減できない費用までも供給を止められている。これに物をいったとしても形式的な物言いになる。
 ハカリの定期検査の実施率は甘く見つもっても7割であるから、費用の削減がなされた分だけ、実施率は低下する。役所から払い下げられた計量団体の事務職員が、指定定期検査機関の運用を駄目にする経費削減を実質抵抗することなく受け入れて、別の県の認可団体に渡るということが現実にあった。ハカリの指定定期検査機関に指定された民間企業の場合でも、絶対に受け入れることができない費用削減があったとしても、この事業を通じて企業と従業員が生きているという現実があるので、その苦しさは増すことになる。甘い言葉で誘われてそれを受け入れたのはいいが、甘い言葉をかけた行政担当者が代わると手の平を返すように予算削減になる。
 ハカリは検定のほかに2年に1度の定期検査に合格しなければならない。定期検査における器差(精度)は検定公差の2倍である。ハカリの指定定期検査機関は、定期検査を県の指定に基づいて実施する。ハカリの指定定期検査機関に指定される団体の大概は計量協会であり、一部民間企業や特定市が実質的に運営する団体もある。
 計量器の検定や検査はすべての計量器を対象に実施してはいない。役所が直接計量器の検定を実施している主な機種としているハカリのほかにガソリン計量器とタクシーメーターがある。これらの検定はメーカー検定になっているため、再検定や再検定に類似のハカリの定期検査などが役所が実施している行政事務となる。東京都など計量器メーカーが集まっている地方公共団体では浮秤(ふひょう)、温度計、分銅などの検定業務が付随する。電力量計、ガスメーター、水道メーターの検定は、指定製造事業者制度に基づいてメーカー検定が実施され、検定の有効期間が満了すると新たな検定付きのメーターに取り替えられる。ハカリの定期検査、ガソリン計量器の現場再検定、タクシーに取り付けられてメーターの検定など、この3機種の計量器の検定あるいは定期検査を通じて世の中の計量の安全を図る仕組みになっている日本の計量制度である。計るための器具・器械・装置、つまり製造される計量器のうちの1%に満たない計量器を役所が直接に検査することによって、総合して日本の計量の安全確保を行っている。
 この部分の計量行政事務を計量の役所の任を担う地方公共団他が放棄することになれば、日本では計量行政が崩壊する。機関委任事務から自治事務となって地方公共団体に計量行政事務が移管されたからこそ、地方公共団体にはこの業務に責任を持たなくてはならない。首長や議員は有権者受けする行政分野を手厚く扱いたくなる。社会基盤に関係する計量行政は、選挙で勝ち抜かなくてはならない首長や議員に相当の理解をされていなくては邪険な扱いを受け、指定を受けた指定定期検査機関が運営困難になってハカリの定期検査が実施されなくなる。計量制度は、ハカリの定期検査ならびに計量証明検査のために、指定定期検査機関制度を設けている。一部の計量器の検定のために指定検定機関制度を設けている。
 地方公共団体が実施する計量器の検定のための制度はない。指定製造事業者制度の指定を受けていないメーカー、あるいはその他の機種のメーカーの検定申請に対して、地方公共団体はこれを受理して検定を実施しなくてはならない。こうした検定業務を一部の地方公共団体が民間団体に「委託」しているという事実がある。指定検定機関制度に基づくものでもない計量器の検定が違法に実施されているのでは、計量法のけじめがなくなってしまう。中央の役所は計量協会など民間団体の「検定実施」という事実行為を検定の補助の概念として受け止めて、整合性を取り繕おうとしている。かつてハカリの検定対象の中抜け解消に20年に及んで議論したのとは対照的に、ハカリの検定に潜り行為をし始めた役所の態度は、恥も外聞もかなぐり捨てた醜い行為であり、実質的には補助ではないから、計量法違反をしている。計量法を改正して違法行為を合法にすることもあり得るが、ハカリの定期検査のための指定定期検査機関制度の運用が破綻していることを考慮すると、一般の計量器の指定検定機関制度を新設しても同じ運命をたどることになる。
 地方公共団体が義務と責任を負う計量器の検定は、偽りない形で地方公共団体が実施する体制を維持・継続しなければならない。

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