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日本計量新報 2008年9月7日 (2739号)

計測の目的が品質のつくりこみであるとその行為は品質管理になる

人の生活、社会活動、生産活動など、人が関わるどのような場面においても計測はついてまわる。縄文時代の竪穴式住居の寸法にも一定の法則性がある。大工は建築に際して「尺し合わせ」をして基準の統一を行った。天体観測は農業に生かされ、古代エジプトではナイル川の水量も予測した。それぞれ必要な事柄を計って、それを応用したのである。
 計測とは「特定の目的をもって、事象を量的にとらえるための方法・手段を考究し、実施し、その結果を用い所期の目的を達成させること。」と規定しているのがJISZ 8103である。計測とはもともと目的をもっているものであり、目的を達成することができない計測は出来損ないの計測ということになる。機械の動きの不確かさ、品質のバラツキなど不安定な要素を探り出して改善するための計測もある。FFTアナライザなどは機械の健康状態を測定し、異常現象の出現を事前に予測し、対応する計測器として広く利用されている。
 そのような計測器を利用して計測活動を総括的に取り仕切るのが計量管理であり、それが商品その他の品質をつくりだすために用いられると品質管理という名称になる。計測の目的が品質のつくりこみである場合は、その一連の行為を品質管理と呼ぶ。
 品質をつくりだすことを目的にしない行程はなく、計測がかかわらない行程もない。だから計測と計測管理と品質管理はどのような作業場にも組み込まれている。簡素な作業工程のなかにも計測の基準は存在し、装置が動くためには基準に基づいた機械の設計が必須であり、つくりだされたモノや商品にも計測の結果が盛り込まれているのである。計測の拙劣は品質に影響する。高精度な計測をしなくても、目的にかなった品質を実現する計量管理をすれば良い商品をつくりだすことができる。
 企業の商品宣伝に「徹底した品質管理」という表現がある。どのようなことが徹底した品質管理なのか明かされたためしがないのが皮肉であるのだが、完成した商品を何度も何度もひねくり返して調べることが「徹底した品質管理である」ように思いこませている。計量管理や品質管理の本筋は、その目的と方針をしっかりと定めて、管理対象の種類や状態を把握し、組織に応じた行程を設計して実際に動かすことである。計量管理に徹底という概念が入り込んではならないのと同じように、品質管理にも徹底ということを持ち込んではならない。品質をしっかりつくりこまないで調査だけを何度繰り返しても意味はないのである。逆にそのように「徹底した品質管理をした」商品は望ましいコストを超過していて不経済な商品である。だから適正な価格を実現することができないのも当然である。
 計量法が定めた計量士制度に基づく計量士の業務は、計量証明事業および適正計量管理事業所における計量器の検査(法的にはハカリの検査)のみである。しかし、各種の事業所で活躍する計量士の業務は品質管理業務が主体となっていて、品質工学の手法をさまざまに応用して総合的に計量管理を実施している。
 計量法が規定する計量管理とは「計量器の整備、計量の正確さの保持、計量方法の改善その他適正な計量の実施を確保するために必要な措置を講ずること」となっている。計量法に定められた計量士の業務規定があまりにも狭隘なものであるのに対し、この定義は、計量管理の範囲をハカリの検査にとどめることなく広く事業所に普及させようという、計量管理推進を啓発する言葉としてとらえるべきであろう。
 計量管理も品質管理も、綿密に計らないように見えて、その実「徹底して計った」のと同じような状態を効率よくつくりだして商品やサービスを製造、提供することである。その意味で製造やサービスの目的をきちんと確認することが大事であり、それに対応した計量管理や品質管理を設計して、計測すべき要素をそこに適切に盛り込むべきである。品質工学はこの方面で新境地を切り開いており、品質管理とは品質工学であるといえる状況を創出している。
 計量管理とその親戚関係にある新技術・新理論の品質工学は、日本と世界の産業の発展に貢献する。


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