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日本計量新報 2008年2月3日 (2709号)

国の計量制度はその国文化をはかるモノサシである

国の組織が計量標準の供給の一方式のトレーサビリティーの普及としてのJCSSトレーサビリティーの領域と認定事業者拡大を図ることを「国が全力をあげて」と表現して力説してみせたことがあった。JCSSトレーサビリティーの領域拡大と普及のそれまでの流れからは、国のこの分野への余程の意識の転換があるのでなければ、その言葉を鵜呑みにすることなどできないことであったが、それから何年かを経過してこの「国が全力をあげて」という言葉は美辞麗句であったといえる。
 日本という国は海外の動きにときに驚き過ぎたる反応をして国の組織を深い考えもなくいじりまわす。教育分野の朝令暮改はその典型で、幼児教育から高等教育の分野まで日本の教育制度はめまぐるしく変遷してきたものの、よい結果は生みだしてはいない。中学校の国語、社会、数学、理科の教科を理解していない大学生は半数にのぼり、医学系に進んでいる学生で生物を学んでいない者が多いという事実もある。
 このようなことが計量計測に関する制度の建設にないかということを考えると、日本の社会に定着していた計量標準の供給方式としての計量法の基準器検査制度を実質上、JCSS認定事業者制度(JCSSトレーサビリティー制度)に置き換える動きをしてきたのは果たして正しかったのかどうかということがある。計量行政の検定検査その他を国家委任事務から自治事務に移したことは、地方計量行政において質量計の定期検査などを含めて計量法の規定を満足することがない「アン・コンプライアンス」ともいえる違法状態が蔓延している現状をさらに悪い方向で動いているから間違いであった。
 イギリスが産業革命をなしとげる際に、ニュートン、フック、ファラデー、ハミルトン、マクスウェルなどの物理学と数学の天才・偉人が登場していたという事実があり、ニュートンの物理学理論がどのように役立つのか理解できる状況にはなかった。またその後のアインシュタインの物理学理論がなければ物質と宇宙への理解はいまほどには進むことがなかったのである。
 国の計量制度がしっかりできていて計量標準がしっかりしていて、その標準の精密度が高いこと、そして産業領域と国民生活と文化領域で計ることが適正に行われていることはその国の文化と産業の質を指し示すモノサシである。イギリスで産業革命がおこったときに日本でそれが実現できたかということになると学術などの基礎的用件からそれは無理なことであった。そのような学問が何の役に立つのかという愚問よりもそのような学問をしていることに畏敬の念がしっかり根付いている社会からは偉人が輩出する。日本で最初の国際度量衡委員の田中館愛橘は東大教授時代とそれ以後も自費をひねり出してでも国際会議に出席して日本の社会への計量制度の定着とメートル法の導入に努力した。計量制度がしっかりできていてどのような分野においても求められる正確さで計量が行われ、必要に応じて精密度の計量標準が供給されている社会は、どのように発展するかわからない次世代の産業を生む土台となる。計量制度に基づく計量行政などを単純・扁平なコストという意識でみるのではなく、それがしっかり行いしっかり行われていることに畏敬の念が世の中にあることこそ、日本の次世代産業を育てることになる。計量制度を軽んじていい加減な計量が行われている国の将来は暗澹たるものであることを知るべきだ。


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