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資料

 計量行政審議会の答申 

(1998年12月18日)
 計量行政に関する通産大臣の諮問機関である計量行政審議会(三好俊吉会長)は、九八年十二月十八日、九八年九月二十四日付で諮問があった地方分権の推進にともなう国と地方の新たな役割や基準認証制度の見直しによる新たな計量制度の整備、計量分野の国際協力のあり方について通産大臣に答申した。通産省は答申にもとづく計量法令の改正案を本99年の通常国会へ提出する。関連記事2290号1面。(編集部)
【目次】
序文
第一 地方分権の推進に伴う国と地方の新たな役割

一、機関委任事務の整理
(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)諸外国の状況、
(3)今後の方向、
(4)地方分権後の国及び地方公共団体の役割・責務
二、必置規制廃止に伴う見直し
(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)諸外国の状況、
(3)今後の方向
三、手数料令
(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)諸外国の状況、
(3)今後の方向
四、権限委譲の推進
(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)今後の方向
第二 基準認証制度見直しに伴う新たな計量制度の整備
一、検定制度等の見直し(検定等の主体への株式会社等の参入)

(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)諸外国の状況、

(3)今後の方向
二、計量標準供給制度の見直し(相互承認の推進等国際整合性の確保)
(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)今後の方向
三、基準器検査制度の見直し(政府認証から第三者認証等の導入)
(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)今後の方向
第三 計量分野における今後の国際協力の在り方
(1)現行制度の現状及び問題点等、
(2)今後の方向
▽計量行政審議会委員名簿 ▽計量行政審議会基本政策部会委員名簿▽審議経過

序 文

一、当審議会は、本年九月二十四日に通商産業大臣から計量行政が直面している課題である次の三点について諮問があったことを受け、それぞれの問題について審議を行ってきた。審議に当たっては、諸外国の状況、国際的なガイドラインの状況等の把握に努める一方、学識経験者、地方公共団体、消費者、産業界等関係の方々の参加を得て、基本政策部会での集中的な議論を踏まえて検討を行ってきた。

(1)地方分権の推進の観点から、今後の計量行政に係る国と地方公共団体の役割をどう考えていくべきか

(2)基準・認証制度を取り巻く内外の動向、メーカー等の製造技術・品質管理能力の向上等を踏まえ、計量器のユーザーや消費者等の利益の保護に十分に留意しつつ、計量を巡る基準・認証制度の見直しをどう考えていくべきか

(3)計量分野における国際協力の必要性の高まりを踏まえ、今後の当該分野における国際協力についてどう進めていくべきか

二、今回の当審議会の答申は、現下の喫緊の課題に絞って議論を行ってきた結論であるが、地方分権及び基準・認証制度の見直しの推進は、別に当審議会が審議を行っている規制緩和の推進と併せ、二十一世紀に向けた新しい計量行政の構築を目指すものである。したがって、本答申に沿って速やかに所要の法改正等が行われることを期待するとともに、今後更に具体的な諸問題について一層の検討がなされる必要があることを付記する。

三、なお、地方分権の推進については、従来、地方公共団体の実施する計量事務の大部分が、これまでの国の包括的な指揮監督の下で行う「機関委任事務」から、地方公共団体の自立的な責任の下で行う「自治事務」に大きく変わることになる。各地方公共団体の関係者においては、国−地方を通ずる新たな関係の一方の担い手であることの意義を改めて認識し、計量行政の一層の充実に努めることを期待するものである。
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第1 地方分権の推進に伴う国と地方の新たな役割

 従来の国と地方公共団体との関係を根本から見直し、両者を対等・協力の新しい関係に転換することによって国と地方を通ずる抜本的な行政改革の達成を図るという地方分権は、今後の我が国にとって規制緩和と並ぶ極めて重要な課題である。

 政府は、地方分権推進委員会の四次に亘る勧告を踏まえた「地方分権推進計画(平成十年五月二十九日閣議決定)」を策定し地方分権を積極的に推進することとしており、法律の改正により措置すべき事項については所要の法律案を平成十一年の通常国会に提出することとしている。

 計量法においても、地方公共団体の実施する事務の大部分について、これまでの国の包括的な指揮監督権の下で行う「機関委任事務」から地方公共団体の自立的な責任の下で行う「自治事務」へと大きく変わることになることから、今次の審議会においては、今後の計量行政における地方分権を推進する上で、国と地方の新たな役割分担について具体的にどのように考えるべきかについて検討を行った。

一、機関委任事務の整理

(1)現行制度の現状及び問題点等

 現行の我が国の計量制度は、計量器の製造、販売、使用に至るまで全国一律の規制を実施している。これらに係る事務は、本来は国の事務として整理されているものの、事務の効率化の観点から地方公共団体に対して事務の一部を委任している。

 このように地方公共団体に委任された事務については、明治二十四年に近代的な計量制度として度量衡法が制定されて以来、検定や立入検査を国の包括的な指揮監督の下で行う機関委任事務として位置付けられている。このため、国は検定検査規則といった検定の合格条件等を定める技術的な基準を省令レベルで定めるのに加え、立入検査の頻度といった事務の運用に至る部分も通達にて定め、事実上、地方公共団体間で運用に差がでることを認めていない。また、地方公共団体が行った行政処分については大臣に対する審査請求を認めていることからも当該事務における最終的な責任は国にあるものと整理されている。

 一方、地方分権推進計画では政府全体で約六〇〇本の法律について見直しを行うことになっているが、地方分権後の自治事務には地方公共団体固有の事務と今回改めて機関委任事務から自治事務へと整理されたものがあり、同じ自治事務と言ってもその性格の範囲には大きく幅があるのが実態である。

 計量行政に関して地方分権を推進するにあたっては、約一四〇〇人もの地方公共団体職員が計量行政に従事し、年間約一五〇〇万個という膨大な検定・定期検査が地方公共団体において実施されているという実状を踏まえ、地方分権後の新たな国と地方公共団体の役割分担について、国として統一的な運用が必要なもの、地方公共団体が担うべきものは何かを改めて整理し、これまで機関委任事務を前提に規定されてきた法律、政令、省令等の関連諸規定について、今後どのような視点から再整備すべきかについて検討していく必要がある。

(2)諸外国の状況

 米、英、独においても、計量制度の主要な施行部分は地方公共団体が実施。一方、これらの国では地方が行った事務の最終的な責任は地方にあり国に対して審査請求が認められていないことから、歴史的にも国と地方の関係は対等であり、実質的に地方分権が実現されている。

〈米〉
▽国として統一的な計量規制はない。
▽各州ごとに計量法を定め、対象計量器、技術基準、手数料等を規定。
▽各州の規制の統一性を図るため、全米計量会議(連邦標準技術研究所:NISTが幹事)を設置し、連邦政府と州政府等が規制の内容について調整。

〈英〉
▽消費者保護の一環として統一的な度量衡法を制定。
▽国と地方の権限と責任は明確に別れており、指導監督は行われていない。
▽国の役割は、法制度の整備、型式承認の実施、手数料や定期検査周期のガイドラインの作成。
▽地方の役割は、検定や定期検査の実施、商品量目の取締り等。
▽地方自治体連絡調整機関において、検定等の技術マニュアルを作成。

〈独〉
▽取引、環境保護及び交通規制の観点から統一的な計量法を制定。
▽国の役割は、法制度の整備、型式承認の実施、技術基準や検定手数料等の全国統一基準の政令制定、法解釈についてのガイドラインの作成。
▽地方の役割は、認定試験所の認定、検定、立入検査の実施。
▽国と地方で解釈の統一を図るための場を設定。

(3)今後の方向

 計量制度は、取引又は証明といった経済社会活動の根幹を為す極めて重要な基盤であり、経済活動のグローバル化が進展する中、その重要性は増しこそすれ変わることはない。計量制度に関し、国と地方公共団体の関係を根本から見直し両者を対等・協力の新しい関係に転換するという地方分権を推進するに当たっては、計量制度本来の目的がより効果的に実現される体制に改められることを第一に考えるべきである。

 なお、地方分権の基本理念が「国と地方公共団体が共通の目的である国民福祉の増進に向かって相互に協力する関係であることを踏まえつつ、各般の行政を展開する上で国及び地方公共団体が分担すべき役割を明確にし、地方公共団体の自主性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図ること」であることからも、計量法に関する事務に関して、国と地方の役割分担を明確にするとともに、地方公共団体においては地域の実情に合わせ自らの自主性を高めた計量行政を推進していくべきと考える。

 これらを踏まえ、国が担うべき役割としては、計量標準の供給や技術基準の制定等、全国的な統一を図る観点から実施すべきものとすることが、地方公共団体が担うべき役割としては、消費者保護や地域住民サービスの一環として適正な計量の実施の確保を図る観点から住民に身近な行政主体として実施すべきものとすることが適当である。

 特に、地方公共団体が実施する立入検査に関しては、昨今の規制緩和の流れの中で、計量器の使用段階での計量の実態確認が消費者利益確保のためには益々重要となることから、地域の社会的要請に応じた立入検査の強化が強く望まれる。

 商品量目規制については、全国的な視点で消費者利益を確保するためには特定商品及び量目公差を政令で規定することが適当と考えられるが、国は特定商品の指定にあたっては地方公共団体及び消費者の意見を十分に踏まえるとともに、地方公共団体は商品量目に関して適正な計量の実施が確保されるよう地域の消費者ニーズに合わせた適切な対応を図ることが必要である。

 なお、地方公共団体において今後自治事務として担うことになる検定の実施事務については、現在の実施体制の整備状況といった計量器ごとの特性を踏まえつつ、地方公共団体、日本電気計器検定所及び指定検定機関の実施主体間で適切な役割分担が進められることが望ましい。

(4)地方分権後の国及び地方公共団体の役割・責務

 改めて整理される国及び地方公共団体が担うべき役割・責務のうち主要なものとしては以下が考えられる。

ア 国が担うべき主要な役割・責務

 計量標準の供給や技術基準の制定等、全国的な統一を図る観点から実施すべき役割・責務として以下に掲げるもの

▽計量制度自体の設計、整備
▽計量単位の統一
▽国家計量標準の開発・維持・供給
▽国家計量標準供給制度の運用
▽特定計量器の指定、型式承認の実施
▽検定、定期検査、計量証明検査の合格条件等の統一的な技術基準(法律、政令、省令)の制定
▽技術基準の国際整合性の確保▽指定製造事業者制度の運用
▽全国統一的な観点からの特定商品の指定及び量目公差の設定
▽計量士関連(国家試験の運営、登録等)
▽全国的な計量思想普及策の実施
▽法令解釈

イ 地方が担うべき主要な役割・責務

 消費者保護や地域住民サービスの一環として適正な計量の実施の確保を図る観点から住民に身近な行政主体として実施すべき役割・責務として以下に掲げるもの

▽商品の販売に係る量目立入検査の実施及び強化
▽検定、定期検査、計量証明検査の実施
▽適正計量管理事業所の指定及び指導
▽製造事業者、販売事業者、特定計量器を使用する者等に対する立入検査等の実施及び強化
▽自主計量管理の推進のための指導
▽地方の自主性を高め地域の実情に合わせた上記事務の運用の実施
▽計量行政事務の実施水準の確保、強化
▽都道府県と特定市間及び隣接県間の連携強化
▽地域住民等への計量思想普及策の実施

二、必置規制廃止に伴う見直し

(1)現行制度の現状及び問題点等

 現行計量法では、地方において計量に従事する職員の資質向上という観点から、当該職員に対する計量教習の受講義務を課すという必置規制を規定。このような必置規制は国が地方公共団体の組織や職の設置を義務付けているものであり、こうした規制は地方分権の観点から地方公共団体の自主組織権を尊重するために廃止されることとなる。

 なお、これは地方公共団体としてより自主的に適切な職員の配置ができるようにするとの趣旨であり、地方分権推進委員会の勧告においても現に業務を行っている職員の職の廃止を推奨しているものではない。

 地方公共団体における計量に関する事務は経済社会の基盤をなす適正計量の実施の観点から必要不可欠な事務であることから、国が地方公共団体の職員に対する計量教習を行う機関として設置している計量教習所に関しては、より地方公共団体職員が利用しやすい教習制度とするべく見直しが求められている。

(2)諸外国の状況

 独では、地方において検定や検査等に従事する職員に対して計量に関する教習を行う機関としてドイツ計量学院を設置。なお、同学院の運営は各州共同で行っている。

 英では、政府の責任で取引基準官(地方の取引基準局において検定等を実施)の養成を行っている。

(3)今後の方向

 必置規制の廃止に伴い、地方公共団体職員の計量教習受講義務はなくなるが、分権後の計量行政においても検定の実施方法等に関しては、上述したとおり、引き続き統一した運用が望まれており、地方の職員人事が短期ローテーションで廻るという最近の傾向からしても検定等の技術的な技能や法制面での知識を教授する計量の教習制度そのものは今後とも極めて重要である。

 一方、そのような計量教習をどこが実施するかについては、地方独自の育成には限界があり、また民間で地方職員を教習できる機関も現状では存在しないことから、既存の計量教習所の更なる活用が合理的である。

 計量教習所の教習に関しては、地方公共団体が職員を効率的に教育できるようにすること及び民間能力の活用の観点から、国は短期教習の拡大等の教習メニューの見直しや更なる民間からの計量教習に関する人的協力を図る必要がある。

 また、地方公共団体は、自主性と自らの責任において行われる計量事務の技術的レベルを維持するためにも、計量に従事する職員の計量教習の必要性を十分に認識し、計量教習制度の効果的な活用を図ることが望ましい。

三、手数料令

(1)現行制度の現状及び問題点等

 現行の計量法では、国、地方公共団体が関連する全ての事務について全国一律の手数料を政令で規定している。

 一方、自治事務化に伴い、地方公共団体の徴収、収入に属する手数料については、地方の自主性を尊重する観点から地方公共団体がその判断により条例で定めることが基本となるが、手数料を全国的に統一して取り扱うことが特に必要と認められる場合は、国は、条例で規定する場合の手数料の対象事務及び金額の標準を法令で定めることができるとしている。

 しかしながら、現行の全国一律の手数料額と各地方公共団体の業務の実務実態に合わせた実費額との間が乖離している場合もありうるのも事実であり、各地方公共団体が実費主義を直ちに導入すると、地方公共団体の手数料は現行手数料若しくは他府県の手数料と非常な格差が発生するおそれがあることが指摘されている。

(2)諸外国の状況

 米では、各州ごとに規定。

 英では国が地方自治体が手数料を設定するためのガイドラインを提示しており、自治体間の手数料額の差は小さい。

 独では国が政令で規定しており、全国統一の料金で実施されている。

(3)今後の方向

 手数料については、地方分権の観点からは地方公共団体の判断により定めることが基本であり、計量法に関する事務についても、当該地方公共団体における検査検定等の受検者に与える影響を勘案しつつ、地方公共団体において各々の実状に応じた手数料を設定すべきである。

 なお、手数料の設定に関しては、これまで国がある一定の算出根拠にて一律に算定していたことから、移行期においては各地方公共団体ごとの急激な格差が発生し検査検定等の受検者が混乱するおそれもある。地方分権当初は手数料の金額そのものの標準を暫定的に定めるべきではないかとの考え方もあるものの、標準額の設定を行うことが地方公共団体の手数料の設定を結果的に縛る可能性もあることから、手数料の設定は地方公共団体の独自の判断により設定するという大原則を維持しつつ、国は手数料の金額そのものではなくこれまでの計量法の手数料に関する算定式等その考え方を提示することが適当である。

四、権限委壌の推進

(1)現行制度の現状及び問題点等

 今回の地方分権推進計画では、国の権限を都道府県又は市町村に、また、都道府県の権限を市町村に更に委譲するため、一定の人口規模等(二十万以上など)を有する市を当該市からの申し出に基づき指定することによって、他法を含めいくつかの権限をまとめて委譲することとされており、計量法の一部の事務も対象となっている。

 一方、従来から、計量法では、都道府県が行う商品の販売に係る計量や定期検査等の適正計量の実施の確保については、より身近な行政主体である市町村において当該事務が実施できるよう、既に特定市町村制度を導入(八十五市指定)している。

 地方分権の推進の観点からは、より身近な行政主体において実施すべきとされる事務については権限委譲を推進すべきであり、計量法における当該事務についても権限委譲の推進をどのように進めるべきか検討が必要である。

(2)今後の方向

  商品の販売に係る計量や定期検査等の事務については、消費者保護の観点からきめ細やかな対応ができるように、より身近な行政主体である市町村において当該事務が実施できるようにしておくことが望ましい。

 一方、これらの事務を実施するに当たり、計量法特有の事情として設備や技術的能力等を保有しないと十分な事務を実施することができないのも事実である。

 都道府県から市町村への権限委譲については、計量法の目的である適正な計量の実施を確保することを第一に捉え、都道府県と市町村の規模や能力に応じた最も効率的で消費者利益を確保しうる体制を整備する観点から推進して行くべきである。
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第2 基準認証制度見直しに伴う新たな計量制度の整備

 基準認証制度に関しては、「経済構造の変革と創造のための行動計画(平成九年十二月二十四日閣議決定)」、「規制緩和推進三か年計画(平成十年三月三十一日閣議決定)」等において提示された下記のような基本的な考え方を前提に見直しを進めることが求められている。

【基本的な考え方】

ア 政府の役割は事業者の取組を補完するルール作りに重点を移していく、
イ 自己確認を促進する、
ウ 検定業務等への適切な第三者機関(株式会社等を含む)の参入を認める、
エ 技術基準の性能規定化を図る、
オ 相互承認の推進等国際整合性を確保する、

 計量法においては、上記項目中、ア 事業者の取組を補完するルール作り、イ 自己確認の促進(指定製造事業者制度の導入)、エ 技術基準の性能規定化及び、オ 相互承認の推進(試験データの受入れ)について既にこれまでの法律改正等により対応していることから、今回の審議会では残された課題である、検定業務等への適切な第三者機関(株式会社等を含む)の参入及び国際整合性の確保に関して、基準認証制度を取り巻く国内外の動向、メーカー等の製造技術・品質管理能力の向上等を踏まえ、計量器のユーザーや消費者等の利益の保護に十分に留意しつつ、どのような整備を行っていくべきかについて、以下の制度について検討を行った。

▽検定制度
▽定期検査制度
▽計量証明検査制度
▽計量標準供給制度
▽基準器検査制度

一、検定制度等の見直し(検定等の主体への株式会社等の参入)

(1)現行制度の現状及び問題点等

 検定制度、定期検査制度及び計量証明検査制度においては行政機能の補完的役割を担うため、第三者機関による認証制度である指定検定機関制度等が導入されている。また、計量標準供給制度においては、本来国自らが行う計量標準の供給を、能力のある第三者機関が国に代わって供給を行う制度として指定校正機関制度が導入されている。現状では、これらの業務における中立性・公正性を担保するため、各指定機関の指定要件として公益法人であることとしている。

 従って、現行法上は、技術能力や業務を中立性等他の指定要件に合致することが認められる場合であっても、法人の形態によって指定することができないことになっている。

(2)諸外国の状況

 検定等の適合性評価を行う第三者機関の指定に関しては、当該機関として求められる技術的能力、経理的基礎、独立性、公正性等を担保するための要求事項をISO/IECガイドといった国際的なガイドラインが作成されており、欧米においては民間営利法人であっても第三者機関として認定されている。

(3)今後の方向

 基準・認証制度とは、安全の確保や経済取引の適正化のために製品や施設等に必要とされる性能を基準として定め、その基準に適合していることを認証・確認する一連のシステムであり、性格上技術的な側面が強いことから、技術進歩を踏まえ効率的な制度運用を実現するための見直しを進めることが本来の目的を合理的に達成するためにも必要不可欠である。

 このような技術基準への適合を問う制度の中でも、計量法の検定等のような適合の合否の客観性を社会的に強く求められるものについては、これまで行政又は公益法人たる第三者による確認が制度上重要としてきたが、その第三者の指定に際しては、効率性の追求による質の高いサービスの提供、国際的な基準との整合性、今後予想される計量器の通商貿易における相互承認への対応の観点から、公益法人のみに門戸を開けるのではなく、株式会社等の民間企業にも参入を認めるべきである。

 また、指定校正機関については、国家計量標準を自ら開発・維持・供給し、諸外国との国際比較を行うという責任をも有するものであり、これらの責務を果たせるのは公益法人しか想定しにくいことから制度上公益法人要件が規定されていたものの、株式会社であってもこれらの責務が果たせる場合には門戸を開くことが適当である。

 なお、参入を認めるに当たっては、これまで通りの技術的能力や経理的基礎の厳格な確認に加え、これまで公益法人であることで担保してきた業務の公正性、中立性といった点について、計量器の使用者や消費者の利益の保護の観点から、改めて整理しておくことが必要となってくる。そのために、国際的なガイドラインとの整合性を勘案じつつ、以下のような具体的要件等を新たに規定しておくことが重要である。

▽公正性や中立性を担保するための当該機関における外部からの独立性の確認
▽検査主体の表示等責任の所在の明確化
▽業務の実施状況確認や更新制の導入等指定後のフォローアップ制度の導入

二、計量標準供給制度の見直し(相互承認の推進等国際整合性の確保)
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(1)現行制度の現状及び問題点等

 近年の経済活動においては、製品の規格、品質、安全性、無公害性などについて基準や仕様に適合していることの証明が必要となり、このための試験や検査に多くの計量・計測機器が使われている。このような中、先端産業分野をはじめ工業生産における高精度の計量に対する要求やIS0九〇〇〇シリーズ等に基づく製造工程における品質管理の必要性から、生産管理や研究開発に欠かせない計量・計測機器については、国家計量標準とのつながりを証明することが強く求められるようになり、平成五年の法改正により計量標準供給制度が導入されている。(現在、国家計量標準として、長さ、質量、温度、電気等、標準物質など十一区分の範囲の供給を実施し、実際に民間において計量標準の供給を行う認定事業者として八十三の事業所(本年九月現在)を認定。)

 なお、本制度に基づき供給されている国家計量標準の範囲は、欧米諸国に比してかなり少ないのが現状であるが、本年六月の産業技術審議会・日本工業標準調査会合同会議知的基盤整備特別委員会においては、二〇〇一年を目途に国家計量標準の供給を現在の約三倍と産業界のニーズに応じて大幅に拡大することとしている。

 一方、計量標準供給制度における認定事業者の認定要件としては、法第一四三条第一号で「特定標準器による校正等をされた計量器若しくは標準物質を用いて計量器の校正等を行うものであること」と規定されており、現行制度は特定二次標準器等を保有して校正を行う者のみを認定事業者として認定し、校正証明書を発行できることとしている。

 このため、認定事業者レベルであれば技術的に社内におけるトレーサビリティを保持することが可能であるにも拘わらず、上記の技術的制限がかかっているため、

ア 認定事業者が現示するものと同じ物象の状態の量しか校正できないため、自らが組み立てる標準等の広がりがないこと、
イ 過度な使用ができない特定二次標準器等が存在すること、
ウ 認定事業者になるためには、直接国家計量標準とのつながりを求めているため、認定事業者の広がりが進まないこと、

等の問題が生じており、また、認定事業者の認定時(定期的な立入も含む)における技術能力を評価する技術審査員の不足の問題も計量標準供給制度の広がりを阻害する要因となっている。

 更に、欧米等の諸外国においては校正証明書を発行できる者に対して特定二次標準器等の保有といった要件は定めておらず、国家計量標準とのつながりと当該者の技術的能力が確認されれば問題ないこととしているため、諸外国においては校正証明書の対象となる計量器が非常に拡大しているのに対し、我が国の制度の対象となる計量器は諸外国において対象となる計量器に比して限定されていることから、その対象範囲について国際的な整合性がとれていない。本分野に関する国際的な相互承認については、現在、国際機関等を通じて進められているところであり、国際整合性確保の観点からも早急な対応が必要となっている。

(2)今後の方向

 計量標準供給制度は、先端産業分野をはじめ工業生産における高精度の計量に対する要求や製造工程等における品質管理の必要性から、計量・計測機器についての国家計量標準とのつながりを証明する制度として極めて重要な役割を担っている。特に近年は経済活動のグローバル化に伴い、各国の経済取引に係る基準認証制度の根幹を成す技術的基盤として本制度の重要性は更に高まっている。

 このような情勢の下、本制度を我が国産業にとってより効果的な制度とし、国際的な整合性を図る観点から、以下のような見直しをすべきである。

三、基準器検査制度の見直し(政府認証から第三者認証等の導入)
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(1)現行制度の現状及び問題点等

 基準器検査とは、検定、定期検査その他の計量器の検査に用いる計量器(基準器)の検査のことをいう。これは検定等の検査制度についての信頼性を確保、維持するため、基準器検査に合格した計量器でなければ、検定、定期検査及び計量証明検査に使用することができないこととしているものである。

 なお、基準器検査においては、当該基準器に対し構造と器差を確認しているが、現状では基準器検査の実施主体としては、国、都道府県知事、日本電気計器検定所に限定されており、構造、器差共に民間等の機関が行うことは認められていない。

(2)今後の方向

 基準器検査制度は、検定や定期検査等の技術的な信頼性の確保のために重要な制度であるが、同制度の主要確認事項である基準器と国家計量標準との器差の確認は、民間校正事業者によっても技術的には可能である。

 基準器検査制度に関しても、民間能力の更なる活用の観点から、指定機関への株式会社等の参入や計量標準供給制度の拡大に併せ、基準器検査の合格条件の一つである器差について、国等だけではなく第三者たる民間校正事業者(認定事業者)からの校正を受けることも認めるべきである。
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第3 計量分野における今後の国際効力のあり方

 経済のグローバル化の進展の中で製品やサービスの流通・発展の基礎となる計量標準や法定計量といった計量制度は国際的な調和が強く求められている分野である。

 一方、マレーシア、インドネシア、タイ等のアジア太平洋地域諸国は、自国の産業発展のための技術基盤としての計量制度の構築を早急に図っており、平成七年のAPEC大阪閣僚会合(計量関連分野)においても、域内における貿易の自由化・円滑化の観点から技術インフラ整備に関する相互の協力を促進していくことが謳われている。

 こうした状況下、アジア太平洋地域の一員たる我が国は、これらの国々における産業の基盤となる計量関連分野への技術インフラ整備に対する技術支援が強く求められているところである。

(1)現行制度の現状及び問題点等

 我が国は、これまでもJICA集団研修やプロジェクト方式技術協力といった制度を活用して計量分野における国際協力について進めてきたところであるが、これまではモノ中心の協力となっており、受入れ国から強く要望されている継続的なヒト(ソフト)の協力については十分に手当できていなかったのが実状である。

 なお、APECにおいても産業の基盤となる計量関連分野への技術インフラ整備に対する技術支援が強く求められており、今後の国際貢献のあり方、特にアジア地域に対する協力は如何にあるべきかについて中長期的視点に立った検討が必要となっている。

(2)今後の方向

 計量制度は経済産業の基盤をなすものであり、計量標準は計量器のみならずあらゆる製品の品質に影響を与えるものとして各国各々が自ら整備すべき極めて重要な技術的基盤である。また計量制度の統一化は、円滑な国際取引の観点からも我が国として積極的に努力して行くべき事項である。

 計量に関する国際協力については大きく分けて、国家計量標準の確立及び供給分野、計量器そのものに対する規制である法定計量分野、試験実施能力を認定するという計量との関連が不可欠な試験所認定分野、の三つに分類することができる。これらについては、国際的な観点からの諸制度等の整合性を検討する場である国際度量衡委員会(CIPM)、国際法定計量機関(OIML)等の国際機関への対応、及びアジア太平洋地域における制度の調和や構築への協力を推進する場であるアジア太平洋度量衡会議(APMP)、アジア太平洋法定計量フォーラム(APLMF)及びアジア太平洋試験所認定機構(APLAC)への対応・協力という両面について、今後、我が国は統一的で継続的な対応が可能となる体制を築くことが喫緊の課題である。

 また、アジア諸国においては、まさに計量制度の整備を図っている状況であることに鑑み、我が国としてもこれまで以上にこれらの国々に対する計量分野における国際協力を進める必要があるが、今後は、これまでのモノ(ハード)の協力から技術が継続的に維持される社会システム・ヒト(ソフト)への協力とその協力の質をより効果的なものにするとともに、当該国の計量関係当局との一層の連携強化を図ることが重要である。

 そのためにも、海外の計量関係者に対する計量教習を恒常的、かつ、継続的なものにするといった強化・拡充と併せ、このような国際計量教習を実施するための人材及び海外で実際に協力を行う人材双方を積極的に養成するといった計量に関する国際協力の人材バンク的な機能をも有する国際計量教習センターのような国際協力の拠点を、民間計量団体とも協力しつつ、我が国において構築することが重要である。このような計量教習の実施や国内外の人材養成を行うにあたっては、現在の業務の関係からも計量教習所の活用を図るべきである。

(おわり)
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