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第203回NMS研究会報告(2015年1月)

(3072号/2015年9月13日、3073号/2015年9月20日掲載)

アシザワ・ファインテック(株) 塩入一希

 2015年1月10日(土)、品質工学会会議室で、第203回NMS研究会が開催された。
 研究会では、矢野主宰から『品質工学』誌への投稿論説の説明、出席した会員からは6月の発表大会に申請する内容を含めて11件の発表があった。

1、 品質工学における技術の在り方(12)とその次の展望(応用計測研究所(株)、矢野宏)

 田口玄一は、品質工学とは何か、とは特に言っていない。いつも事実から始まり目的を明確にして「場数」を踏んだ。具体的な実践が大事で方法論が優先ではない。「本当の目的」をしつこく追及して論理を設計していくのである。そして、そこで求めているのは論理性以上に合理性である。
 品質工学を読み解く視点について興味深い議論があった。
 吉原から、品質工学は東洋医学の予防の視点に立っていて、一般にいわれている問題解決は西洋医学の処置の視点にあるという意見があった。それに対して細井から、予防として品質工学を使いたくても瀕死であれば是正をするしかないという。田村は、確かに病気から回復したら元の不摂生な生活に戻る人がほとんどだと指摘した。また、因果関係の説明について、田村は、一般の設計開発者は制御因子と出力である結果に因果関係を欲しがるという。品質工学の動特性が本当の因果関係を示しているという橘鷹の視点は的確であった。
 矢野は、次は技術の在り方を検討している。つまり「何にでも役立つ品質工学」を執筆する予定だ。
 品質工学の展開を@バーチャル設計、Aシミュレーション、B誤圧を使ったMTシステム、C機能をどう見つけるか、の4つの柱で紹介したい。機能の探索については思案中である。シミュレーションは、初めから大きな実験は大変であるから、L9など小さな実験から始めることを推奨したい。
 田村からソフトウェアのシステム積み上げがわかりにくいという意見があった。確かに全体構想といわれると余計にわからなくなり、大きなシミュレーション実験もいきなり作るのはリスクが大きい。近藤は、学生の頃に数値計算を専門にしていたが、指導者からはまずは小さな計算が矛盾なく動くことを確かめてからやりなさい、と教わったという。

2、 粉砕機開発プロセスの提案(アシザワ・ファインテック(株)、塩入一希)

 粉砕機の開発に流体数値計算を用いた評価ステップを提案する。開発のアイデアである装置形状を流体数値計算で解くことにより、開発アイデアの評価を素早くできる。実機実験には最適化された形状で実験することで改造や手直しのコストを削減し、製品化か開発中断かの素早い判断が下せるようにしたい。

3、 バーチャル設計で顧客価値をシミュレーションし、妥当な製品設計(寿命)の目標を決めるための研究(コニカミノルタ(株)、近藤芳昭)

 顧客をバーチャルで設定し、製品故障率をシミュレーションで算出して、市場に合う設計目標を立てようという研究である。前提として印刷業界などBtoB製品を対象にしている。印刷が止まることが顧客の損失になるので機械故障率を扱った。細井からコマツでは「効用」が顧客価値だという意見があった。故障しないことは大切だが自動の大型建機で危険な場所の作業を無人でおこなえることが効用である。「ボタン操作を減らしてほしい」や「コピー機自体が使用者の所に来てくれたら嬉しい」など柔軟なアイデアもあった。

4、日本企業の業績評価の単位空間の検討と項目診断(NMS研究会、吉原均)

 第2報として時系列を加味して単位空間110社、127項目で計算をおこなっている。信号で大きいものから並べるとトヨタや東京電力が来る。これは前回までの報告とほとんど変わっていない。項目を増やした分細部が見える項目診断を期待したい。

5、特性値シミュレーションを活用したクランクシャフトの最適設計(トヨタ自動車(株)、橘鷹伴幸)

 クランクシャフトは一度設計してしまうと設計変更がなかなかできない。そこで企画段階から性能の目途付けをしたい。今までは、詳細なシャフトの形を3D図面にしてから有限要素法(FEM)解析をしていた。それを1DのFEMでシャフト形状のおおよその形を評価したい。
 吉原から「クランクシャフトの顧客は誰か」という質問があった。この視点は働きを考える上で重要である。クランクシャフトの顧客はその回転によって稼働するピストン機構だと考える。

6、エンジン燃焼における壁温分布の最適化 第2報(トヨタ自動車(株)、橘鷹伴幸)

 昨年大会発表した研究の続報である。前回までに、エンジン燃焼時の昇温と冷却による降温を時間の標示因子で分解して新たな知見を得た。今度は、高温と低温のどちらにも対応させる設計ができるように、そこから示唆を与えたい。

7、火炎伝播検出装置の最適化検討(トヨタ自動車(株)、橘鷹伴幸)

 燃焼状態を流体数値計算で解析する研究は発展しているが、実現象との整合性がわかりにくい。燃焼実験の計測システムの研究をする。燃焼の可視化用シリンダーを用いて、イオンの検出で測定をする。火炎の有無を入力に、計測結果を出力にしている。

8、プラズマ切断機ノズルの水冷回路のパラメータ設計(コマツ(株)、細井光夫)

 プラズマ放出部の発熱とそれを冷やす冷却水をシミュレーションで解析する。熱平衡状態までを計算せずに冷却水との熱収支を考えることで計算を効率化させた。実際に製品化したものに適用した事例である。

9、エキシマレーザ耐久性向上のためのパラメータ設計(コマツ(株)、細井光夫)

 レーザーの予備電離電極のパラメータ設計である。予備電極が劣化してコロナ放電の状態が変わると、レーザーの状態がばらついてしまう。劣化によって変わってしまう隙間をバネで押し当てていたが、そのバネをシミュレーションで評価した。従来の耐久試験は実機で壊れるまでおこなっていたが、装置は数億にもなるのでコスト削減のメリットが大いに出た。

10、安息角シミュレーションのパラメータ設計(コマツ(株)、細井光夫)

 離散要素法(DEM)を用いると砂の積載を再現できる。しかし、実際の砂のサイズで計算すると、要素の数が膨大過ぎるため計算時間が長時間になり非現実的だ。そこで粗視化によってピンポン玉サイズ程度の粒子に置き換えたい。パラメータ設計を用いて計算コストを削減しながら的確に安息角を再現するシミュレーションを実現したい。

11、日常的に使っているものの危険有害性(横浜国立大学、窪田葉子)

 普段なにげなく使用している日用品に含まれる化学物質の危険性はあまり知られていない。危険有害性を示すことで、極端な使い方による被害を減らしたい。規格などの対比から化学物質の危険有害性をMT法誤圧で示した。「危なさ」の定義を考え、効果的に告知を検討したい。

12、歯磨き粉の開発に関する研究(ヱスケー石鹸(株)、安藤欣隆)

 以前、歯磨きチューブの製造工程のなかで品質工学を実践した事例を紹介したが、今回はチューブの中身である歯磨き粉の製造である。歯磨き粉の原料は無数に存在するが、どの組み合わせが適切かは一概に決まっていない。
 そこで、効率的なスクリーニングをおこなうために、直交表で組み合わせた原料からできる歯磨き粉の粘度や、それの抗菌力を計測した。そうした検討を経て現在は、スクリーニング後の原料から、実際の製品設計を実践している。

13、公開討論会について

 2月にはNMS公開討論会が開催される。会場は前回より小さな会議室になるが、参加希望者は前回を越える数の方に応募して頂いた。さまざまな業界から人が集い、さまざまな視点が交わされる場である。日刊工業新聞の取材もおこなわれる予定。
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