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日本計量新報 2016年2月28日 (3093号)

アインシュタインの予言の重力波を直接にとらえることに成功

1面既報のとおり、"重力波(じゅうりょくは)を測定器を用いて直接つかまえられた。2016211日、米カリフォルニア工科大と米マサチューセッツ工科大などの研究チームが、2015914日に米国にある観測装置LIGO(ライゴ)で重力波を検出したと発表した。

重力波は、時空(重力場)の曲率(ゆがみ)の時間変動が波動として光速で伝播する現象。

素粒子物理学の標準理論において重力相互作用を伝達する素粒子として重力子(graviton)が想定されているが、これは2016年現在未検出である。重力波の検出は、現在の一般相対性理論研究の大きな柱の1つである。大きなレーザー干渉計や共振型観測装置が世界の数拠点で稼働しており、日本でも近く飛騨市神岡町に建設中の「<RUBY CHAR="KAGRA","かぐら">」が稼働する。重力波は非常に弱いのでノイズに埋もれた観測データから重力波を抽出するには重力波の波形を理論的に計算して予測する研究がつづけられてきた。

重力波は物体が加速度運動をすることにより放出される。完全な球対称な運動(星の崩壊など)や円筒対称な運動(円盤状物体の回転など)からは放出されない。巨大な質量の天体が光速に近い速度で運動するときに強く発生する。ブラックホール、中性子星、白色矮星などのコンパクトで大きな質量を持つ天体が連星系を形成すると、重力波によってエネルギーを放出して合体する。

観測装置LIGOで検出した重力波は、地球から約13億光年の位置にある2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転して衝突したときに発生したものである。これによって時空の「さざ波」のようでもある重力波が直接観測された。

2つの鏡を4km離れたところに設置し、レーザー光を反射させている。すると重力波によって陽子の直径の1万分の1の変化が生じる。LIGOの検出器でこれを検出(測定)した。

LIGOは、L字型をした2基の同じ検出器を米国ルイジアナ州リビングストンとワシントン州ハンフォードに設置している。検出した信号が本物であるためには、両方の検出器でキャッチされなければならない。検出器は、L字型に直交するアームのそれぞれに鏡を設置したもの。通過する重力波は、時空を1つの方向に引き伸ばし、もう1つの方向に押し縮めて、検出器のアームの長さをごくわずかだけ変化させる。この変化をレーザーで測定する。

巨大な恒星が死んで押しつぶされるときに形成されるブラックホールは、宇宙で奇妙な天体の1つである。近づいてきた物質や光を圧倒的な重力で捉えてしまう高密度のブラックホールは「ゆがんだ空間がぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、刻々と変化していく」。

飛騨市神岡町に建設されていて間もなく動きだす重力波望遠鏡「KAGRA」が米国などのそれらと連携して重力波を観測すると、三角測量の原理にしたがって発生源の方角や位置を特定することができる。

重力波の働きで生ずる動きをみることができる重力波望遠鏡は、これまでは見えなかった宇宙の現象がみえてくる。

重力波で宇宙を見ることは、人類が初めて赤外線、X線やマイクロ波の目で宇宙を見たときに匹敵する。人類は何千年も前から可視光で恒星や惑星を見て、その動きを観察してきた。初めて赤外線で見た宇宙は、星々が生まれてくる高温の塵の塊でいっぱいだった。X線で見た宇宙は星々の死骸だらけだった。マイクロ波で見た宇宙はビッグバンの高熱の名残に満たされていた。観測に重力波を用いることによって天文学は革新される。

重力波は、電磁波ではよく観測できなかった遠方の天体や天文現象を調べる新しい手法だ。ブラックホールという天体が存在するかもしれないという推定は、銀河の中心に巨大なブラックホールが存在している確かな証拠をつかんできた。重力波望遠鏡によってこうしたブラックホールとは違ったタイプのブラックホールを直接測定する方法が実現した。

1916年にアインシュタインによって初めて予言された重力波は、一般相対性理論のなかでもとりわけ奇妙な現象で、ブラックホールの衝突、中性子星の合体、恒星の爆発など、時空を伸び縮みさせるほどの激しい高エネルギー現象によって発生する。 

人は日常では時空の伸び縮みを感じない。時間は一様に流れており風景は伸び縮みしない。カリフォルニア工科大学のLIGOのチームを率いるアラン・ワインスタイン氏は、「それでも重力波は、今この瞬間にも私たちの体を通り過ぎています。これは確かなことなのです」と述べる。LIGOのチームは総勢千名をこえる人員で構成されている。 

重力波が地球を通り抜けているのは確実なのに、それを観測できなかったのは、空間の伸び縮みが信じられないくらい小さいからだ。その大きさは1021乗分の1<CODE NUMTYPE=SG NUM=65A1>であり、原子核を構成する陽子の直径のわずか100万分の1である。

学術誌『フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)』に発表されたLIGOチームの原稿を見た米国国立電波天文台のスコット・ランサム氏は「とんでもなくすばらしいデータです」と述べる。「特段の統計的操作もせずに、検出器の生のデータに重力波を見てとることができるなんて、ほとんど誰も期待していなかったと思います」とも。 

LIGOの科学者たちは、信号は本物だと確信している。見積もりによれば、これだけ本物らしい<RUBY CHAR="","にせ">の信号は20万年に1度しか入ってこないという。LIGO20151012日にもブラックホールの合体により発生したと思われる候補信号を少なくとも1つ検出しているが、それが<RUBY CHAR="","にせ">の信号ではないという確証はないという。

米国のLIGOの重力波検出装置は1辺の長さが4kmの管がL字形に配置されている。直角に交わる部分から2方向にレーザー光を同時に放ち4km先の鏡によって戻ってきた光を重ね合わせる。重力波が通過すると時空がゆがむために、重ね合わせたレーザー光にずれが生じ、これによって重力波を検出する。

重力波がぶつかると2つの物体の間の距離が変化してみえる。それを検出する装置がLIGOなどの重力波望遠鏡という設備である。重力波による物体間距離の変化は、直交する2つの方向のうち、片方が伸びたときはもう片方が縮むという変化を繰り返す。その伸縮量は物体間距離が離れているほど大きくなる。 

同じ光を直交する2方向に向けて発射し、遠くに置いた鏡で反射させ、また戻ってきた光の到達時間を両方で比較して長さを測る。伸びた距離を走った光のほうが短い距離を走った方の光より帰ってくるのに時間が長くかかるため、伸縮の有無がわかる。

地球が丸いために光が走る腕の長さは4kmほどが限界である。1回折り返しでは8kmほどとなる。片腕に2枚の鏡をつけてその間を何度も反射して折り返すと光が70kmほど走ることになる。

現在世界で最も感度のよいLIGO重力波望遠鏡であっても、数百年に一度の重力波イベントしか捉えることができなかったのが、設備の能力を飛躍的に高めたことで重力波の直接検出ができた。観察能力の向上は1年に数回の重力波イベントの観測を実現することになり、これによって重力波天文学の幕が開く。 

日本でKAGRA(かぐら)計画として進められている神岡鉱山地下の設備による観測の成果が期待される。重力波望遠鏡のKAGRA計画では、感度向上のため他の装置にはない2つのことに挑んでいる。

1つは神岡鉱山内という地面振動が少なく、温度・湿度の安定な環境に設置することだ。神岡鉱山内の振動は地上の100分の1である。重力波検出装置を長時間運転し、観測するための利点になる。20<CODE NUMTYPE=SG NUM=65A1>の小規模サイズの設備であってもプロトタイプ検出器(LISM重力波プロトタイプ)では極めて簡素な制御のみで、当時の複雑な制御系を組み込んだどの大型検出器も達成できていないかった1週間以上の連続運転を実現している。 

2つ目は検出器にサファイアという光学素子を使用し、それを世界最低振動の電気冷凍器によってマイナス253℃という絶対0度のマイナス27315℃に近くまで冷却することで、検出器の感度を制限していた熱雑音を低減している。プロトタイプとして神岡鉱山内にCLIOCryogenic Laser Interferometer Observatory)検出器を建設し、低温鏡を利用した検出器の実証実験がおこなわれている。

岐阜県飛騨市の神岡鉱山はニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」で知られるが、同じ神岡鉱山跡地に大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が完成し、201511月に報道陣にプレスリリースがだされ同時に公開された。

KAGRAは地下200<CODE NUMTYPE=SG NUM=65A1>以深に掘った片腕3kmL字型トンネルを利用する巨大なレーザー干渉計で、重力波の到来による2点間の距離の変化を検出する。今年度中に試験観測を開始し、2017年には本格観測を開始する予定だ。KAGRAとは「神岡」のKAと重力をイメージする「Gravity」や「Gravitational wave」のGRAを組み合わせてつけられた名称で「かぐら」と読ませる。

大型低温重力波望遠鏡計画がKAGRA計画であり、この望遠鏡とは地底深くに設置されたレーザー干渉計であり、レーザー干渉計型重力波検出器という言い方もある。

重力波は波動現象だが、人類が道具としてきた電磁波の仲間とは異なる特徴をもっている。重力波は重力を発生する起源である質量が運動することで生じる。質量は物理学のテーマの1つである時空の構造を決定する要素である。これまで数学の領域にあった目に見えないな天文現象を観測可能な領域に導いたのが重力波を使った宇宙の観察である。電磁波を使った観察と異なる天文観測の新領域が切り開かれる。

計測と計測機器の視点に立って重力波望遠鏡を理解すると、レーザー干渉計による精密な長さ(距離)測定である。ある距離の間を行き来するレーザー波が重力波によって<RUBY CHAR="","ゆが">むことでその行き来の時間が変化し、時間の変化は長さ(距離)の変化である。米国の<RUBY CHAR="LIGO","ライゴ">は重力波による空間のゆらぎを反映する動きを2015914日に米国ルイジアナ州とワシントン州に設置された2つの設備で検出したのである。その検出装置はレーザー干渉計であった。その観測対象の大きさは原子核を構成する陽子の直径のわずか100万分の1であり、表現を変えると1021乗分の1mである。

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