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日本計量新報 2014年1月19日 (2995号)

測定の要件が幾つも重なると不具合が増幅されることがある

アメリカ人は写真を懐に入れてそれを大事にする。大事な人の写真だからだ。日本人は携帯型の電話機でそのようにする。これがいまの時代だ。カルチャーセンターなどが実施する写真教室が人気である。写真を撮影することを教える学校であり、ここで学びそして写真を撮ることを悦びとする人は多い。ここで学んだ優等生や気持ちが高ぶった人に対して「ハイアマチュア」という言葉を用意して高額なカメラとレンズを売ることが日本の文化になっていた。高原の野鳥を撮影する集団がいて、ここでは100万円を超える望遠レンズをデジタルカメラに取り付けて、皆が一斉にシャッターを切ると、カシャ・カシャ・カシャと凄い迫力である。撮影していた野鳥はノビタキであった。これは野外教習という趣である。
 東京のJR中野駅近くにカメラ店がありゴミ箱のような箱にカメラ放り込んであり、これを売っている。プラスチック容器の自動焦点カメラが300円ほど、金属容器のフォーカルプレーンシャッター式のカメラで500円から1000円のものが多く、人気のあったカメラが2000円、現行機種に近いものでは4000円ほどで売られている。レンズもカメラボディーに似た値段である。300点ほど並んでいるのが1カ月もすると別のモノに置き換わる。
 写真を学んでいる若い女性がこうしたカメラを買っている。老いも若きもこのゴミ箱に興味があって、物色しては代金を払って持ち帰る。韓国人のバイヤーがたむろしていて出物を真っ先にかっさらう。日本人でも壊れたカメラを修理して再販売する人が同じようにする。ここの店番の店員が話していた。大伸ばししたフィルムカメラによる写真は落ち着きや味があって素晴らしさは十分であると。デジタルカメラには考えなしに撮れるコスト面での優位さがある。写した写真をすぐに見ることができ、パソコンなどのモニターで大きな画像として見ることもできる。かつては写真集を出すことができるのは有名な写真家か、そうでなければ無理に費用を捻出しての自費出版だった。インターネットを利用して写真集を公開できるのが現代の社会である。フィルムカメラで撮影したものをデジタル加工して公開しても同じことであるが、このようにするならはじめからデジタルカメラを使ったらよい、ということになってしまう。フィルムカメラの出番は極度に少なくなっている。
 カメラが人気になったのは露光のための測定器が内蔵されたからである。手動による測光が自動測光になり、手動による焦点あわせが自動焦点あわせになった。それがさらに進んでフィルムがICチップ代わった。正月恒例の富士フイルムのテレビCMはスマホを持ち込んでのプリント指定である。
 ゴミ箱をあさって手にしたカメラの動作を確認する。シャッターが切れるか、ファインダーに曇りはないか、そして露出計は作動しているか、などである。シャッターは切れても指定の速度で走行しないのが多い。これは古くなったカメラがそうだからでもある。露光計は全く動かないのやら、動いても適正値から外れているのやら、フィルム感度の設定の周動板に異変があるのやら、いろいろである。最初から壊れたカメラとして売られているのだから、壊れていると文句を言うことはできない。知識と経験を総出しにして使えるカメラを探し出す。博打(ばくち)をしたくない人は壊れていないカメラを求めることになり、値段は4倍ほどする。
 カメラの露光計は反射式の方式をとっていて、壁などの対象物から跳ね返る光の量ということでこの明るさを基にして表示をする。フィルムには感度が設定されているので、フィルムの感度に対応する露光をすることが適正露出ということになる。真っ白の壁紙からの反射、あるいは真っ黒な壁紙からの反射によって、露光計が作動する値で露光すると写った写真はどちらも灰色になる。シャッター幕の走行とその幕の開き具合が適正で、レンズが指定した絞り具合であるということがその条件である。
 手慣れた写真家はそのレンズの絞りの具合やシャッター速度が正常領域であっても微妙な癖があることを知っている。フィルムに示された感度設定もフィルムの製造条件で変化している。これらを総合して勘案して撮影して満足の得られた写真を作品にする。
 これらのすべての背景には計測という要件があるとはいうものの、その要件が幾つも組み合わされるとズレが生じる。有名写真家が発表した写真の、撮影に使用したフィルム、シャッターの幕速、レンズの絞りと同じ条件で撮影しても同じ写真は撮れない。焼き込みの技術がこれに加わり、部分的に焼きを強くしたり弱くしていることもあるからだ。
 昔のカメラメーカーの多くは、もはやカメラを製造していない。ハカリの分野でトップ企業になったり、光の量や明るさを測る技術によって次のビジネスをつくりだしている。

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