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日本計量新報 2010年11月14日 (2846号)

長いものに巻かれない、気概ある職員を望む

新しい技術は、多くの場合、それまであったものを不要にしてしまう。
 昨日した仕事を今日も同じように一生懸命に行えば勤勉であると賛辞が送られていた業務でも、画期的な新しい技術が誕生すれば、急激に状況は変化する。

例をあげると、鉄道などの自動改札機は、切符きりの仕事を不要にした。有料道路のETCも同じように作用している。役所窓口での住民票や印鑑証明発行も、カードによる自動発行が普及してきている。電子技術に顕著に見られるように、技術の発達は、労働量を削減する方向に働く。
 製品でも同様のことがいえる。長い間、ユーザーに喜ばれて製造者との授受が行われ、相互に幸福を分かち合う関係がつづいていた製品であっても、今までに無かった新しい技術を搭載した新製品が開発されれば、見向きもされなくなる。
 自分は変わらなくても、世の中が変われば世の中に取り残される。同じことが企業にもいえる。
 自分(個人)や企業は変わりにくいけれども世の中は変わりやすいし、実際に絶えず変わっている。変わらない自分を基準にして物事を考えていれば平穏であるけれども、世の中と歩調を合わせて生きて行かなくてはならない立場である場合には世の中からずれてしまう。それが企業である場合、世の中の変化に適応できず利益を上げることができなければ倒産してしまう。

 その一方で、医者や病院が増えれば、病人や患者が増える。弁護士が増えれば、訴訟が増える。環境庁ができたことによって、日本に公害や環境問題が増えた。環境庁が環境省に格上げされたことによって日本の環境問題がもっと増えると本気で論を説く学者がいる。
 職業に従事する人口が増えれば、増えた分に比例して、人が仕事を作りだすという理論が成立するとすれば、地方公共団体の計量行政を対置するとどのような論理ができあがるであろうか。
 計量検定所や計量検査所などの計量行政機関の組織が、縮小したり実質上解体されると、計量の問題は起きなくなる。計量法に違反する状況が生じても誰もそれを取り上げないし、問題を解決する手立てもしなくなる。さらに状況が悪化して、地方公共団体から計量行政組織の機構が消滅すれば、地方計量行政は実施されなくなる。そのような恐怖が現実に発生している。

 貧すれば鈍すということか。地方公共団体における税収入不足は、計量法に規定されている業務を、意図的に忌避する事態を招いている。 
 地方公共団体が、経済と文化の発展の基礎となる計量行政をないがしろにすることは、適正な計量の実施を確保することを捨て去ることである。それは、住民福祉の向上を目的とする公共のサービス機関としての役割に背く行為といってよい。

 地方公共団体は、計量行政をしっかり実施せねばならない。そのために知事は、お金と人と設備と組織体制を整えることに邁進しなければならない。
 知事のもと、計量行政に当たる部署の担当職員も、業務の重要さを認識して仕事をする必要がある。仮に現在置かれた状況が、任務遂行に不十分な環境であったとしても、計量行政実施への熱意を失ってはならない。社会のため、適切な計量業務が実施できるよう状況を好転するための行動を起こすくらいの気概が欲しいものである。
 長いものに巻かれない、気概ある地方公務員を望むのは、自治体住民の立場からは当然のことである。

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