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 世界の法定計量、地域の法定計量、試験結果の相互承認への取組み 

G. Faber(CIML委員長)(2002年7月23日、日本出版クラブ会館)

 

<目次>

  1. 法定計量が経済発展を支える

  2. 経済が発展すると法定計量の必要性が大になる

  3. 国際化と国際貿易は信頼できる測定を必要とする

  4. WTO/TBT協定は相互承認を求める

  5. 多数の国が計量法を改訂している

  6. 国際地域の法定計量は益々活発になっている

  7. 相互承認は大抵の計量関連分野で進められている

  8. 法定計量における認定と承認

  9. OIML MAA草案

  10. グローバルな計量制度に向けての更なる前進

  11. OIML相互承認制度における地域の役割

  12. 結論

 

法定計量が経済発展を支える

法定計量は経済の発展と切り離せない関係にある。経済発展の促進には、科学、技術、輸送、商業、教育などの社会的基盤を網羅するネットワークが必要となる。こうした全ての基盤は、計量を必要としており、広範囲に行われる測定の信頼性は、国の計量分野での基盤形成に依存している。

これらの基盤の商業面、社会面を見ると、法定計量が、経済発展を支える計量分野の基盤の中でも非常に重要な役割を担っていることがわかる。

国内での取引を間違いなく機能させるには、測定への信頼と公正な競争が不可欠だと考えられている。

−法定計量は、取引で使用される測定結果への信頼を築くことを目的としている。与えられた測定結果にこのような信頼が無ければ、経済活動の担い手は重複して測定を行おうとする。これは多くの論争を引き起こし、結果的に国内の取引を不活性にさせる。

−法定計量は、誤りのない測定が競争の公正さを与えることを保証する。測定結果に誤りがなければ、製品の品質や量目と料金の間の比較が可能となる。このように、法定計量は消費者保護の道具としてだけではなく、国内市場の公正な運営を保証する。

一方、国際取引の発展により、国内の輸入業者、輸出業者の利益を保護することが必要になってくる。法定計量は、ここでも、輸出入業者が求める信頼を提供することができる。

健康、安全、環境の保護は社会福祉にとって不可欠な要素であり、それが経済発展に伴う必要がある。法定計量は、健康、安全、環境のために、信頼できる測定結果を提供することにより、このような福利厚生にも寄与している。

計量は一般的に個々の企業の発展に必要だが、法定計量は、国に、より重要なものをもたらす。法定計量は、社会全体に有益な貿易や産業の発展に寄与する。

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経済が発展すると法定計量の必要性が大になる

他方では、経済発展が、結果として測定の進歩を導く。日常生活や商業取引でも、より複雑な測定に基づく高度な技術が用いられるようになり、健康、安全、環境分野では多種類の先端的な測定が行われている。

経済発展の結果の典型例はユーティリティーメータ(ガス、水道、電気)の技術の向上である。ユーティリティーメータへの信頼は法定計量に大きく依存する。

もう一つの例は、穀物の取引である。経済が発展すると、国際貿易が、体積だけではなく、質量、密度、湿度、不純物含有量、蛋白質含有量、殺虫剤の測定に基づき行われるようになってきた。国内取引も漸次そうなりつつある。遺伝子操作した食品等を見分けるにも測定が必要とされる局面があるかもしれない。

経済が発展するにつれ、健康や環境の保護意識が高まり、水中の汚染物質、食品の汚染や有毒物質、薬及びワクチンの品質、非汚染度等々の測定が必要となる。

個々人は、こうした全ての測定結果の信頼度を評価する技術能力を持ち得ない。測定の種類が増えるにつれ、法定計量の範囲が広がる。

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国際化と国際貿易は信頼できる測定を必要とする

国際化により経済は益々相互依存するようになった。輸入品に支払われる、あるいは、輸出品から得られるGNPの割合は伸びている。経済の分化は商品の取引をより集約化し、工業製品は今では世界市場を相手に製造されている。

国際貿易は、国内取引が経済発展の中で直面したのと同様の事実に直面している。かって、国内段階で考慮されたのと同様に、信頼性、弱者の保護及び公正な競争に関する問題が今や国際貿易の場で検討されるべきである。

経済の国際化は、国際企業、バイヤー、供給者、請負人の間での信頼の確立、そして、国家による測定への信頼の確立を要求する。このために、測定が、国際計量標準もしくは同等と認知されている国家計量標準にトレーサブルであるというグローバルな計量制度が求められている。

これは、また、国際取引での最弱者を適正に保護することを必要としている。国際的な場においては、企業と国は、国内で企業、地方機関、消費者、市民が果たしている役割を演じている。最弱者とは、技術設備が十分でない国にある企業もしくは国自身である。最弱者とは、また、圧倒的もしくは独占的な地位を占める企業又は国から製品や必需品を購入する企業なのである。

従って、国際的な場で、世界的規模の法定計量制度を考案しなければならない。既に、OIML内での法定計量機関の協力、国の法定計量法規の整合化、国の法定計量制度の整備への支援は、非常に重要な行動となっており、OIMLは、こうした活動をグローバルな法定計量制度の最初の活動として設定している。

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WTO/TBT協定は相互承認を求める

世界貿易機関(WTO)/貿易の技術障壁に関する協定(TBT)は、公正な競争を尊重する国際貿易の促進に寄与している。国の技術規制の違いによる障壁を取り除くには二つの方法がある。一つは、正当化できない技術規則を除くことであり、もう一つは技術規則を整合化し、相互承認を発展させることである。しかし、技術規制には、健康、安全、環境の保護、あるいは、消費者保護を目的とする多数の分野があり、技術規制の数を抑制することを想定できないのは明らかである。

そこで、整合化がこれらの障壁を取り除くための不可欠な道具となる。TBT協定は、各国が自国の技術規制を国際的に認知された規格に基づき作成すべきだと、規定している。結果として、国際規格開発機関は非常に重要となり、WTO/TBT委員会でオブザーバーの地位を得ている。また、TBT委員会事務局とともに幾つかの調査、例えば開発途上国が標準化作業に参加し易くする方法の検討、などに参加している。

国際標準化機関(ISO、IEC)の主要な目的は、企業と買い手、製造事業者と製品の使用者の関係が技術面で円滑になるように規格を整合化することである。OIMLもこの目標を持っているが、OIMLは、基本的に法定計量規則を整合化することを第一の目的とする。国際標準化機関は国の標準化団体を召集するが、各国の標準化団体は、製造者、使用者、消費者の間で合意を得る努力をしている。OIMLは、関係団体の利害を調整する責任がある国の規制当局を集合させ、調整を委ねることにより、直接WTO/TBT協定の目標に目を向けている。全ての関係団体が合意する必要があるのは、OIMLが勧告する作業方法である。

しかし、貿易の技術障壁を除去するためには、規制の整合化を行うだけでは不十分で、法規に基づく認証及び試験の不要な重複を、完全に除去することにより実現する必要がある。従って、国際貿易を円滑にするには相互承認が非常に重要になるわけである。法定計量における貿易の技術障壁が取り除かれるのは、ある国で有効だと認められている計量器又は測定が、他国でも実際に受入れられる場合である。これを達成するには二つの方法が考えられる。できるだけ広範囲のグループ国の間で相互承認を発展させるか、あるいは、それらの国が認知できる国際認証制度を設置するかである。

このような国際認証制度が、世界規模の法定計量制度の始まりといえるだろう。しかし、相互信頼が確立されないうちは、国際認証制度を設けることはできない。相互承認協定の締結はこの国際制度に向けての第一歩であり、同じ整合化した要求事項に共に取り組むことにより参加者に経験と信頼を与え、国際貿易の円滑化という緊急の必要性に答えている。OIMLは、OIML証明書制度を設けることで、このようなグローバルな制度の最初の個別要件を設置したが、それは任意の制度で、CIML委員によって指名された発行機関が一般規則に従うことに同意し、計量器の型式が当該OIML国際勧告に適合するという証明書を発行するものである。この最初の個別要件は相互信頼に必要な個別要件により、そして個々の計量器の認証に関する個別要件によって完成されなければならない。

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多数の国が計量法を改訂している

大部分の国は、計量のあり方や、計量制度が、技術の進歩、経済及び社会の要求の進化及び国際関係の進展に適応する必要があることを認めている。計量や法定計量の重要性が全体として常に十分理解されているとは云えず、評価されることが少ないが、国の計量制度を再構築する必要性があるのは明らかである。

現在、多数の国が、国内の計量法を改訂している最中か、遠からず改訂する意向を持っている。様々な状況がこのようにさせているのだ。

−開発途上国は、先進国からパートナーとして認められたいと、また、 自国の製造事業者が国際市場により良く参入できるために、国の計量制度の立ち上げを望んでいる。

−社会体制が移行期の国は、計量の法体制も、市場経済に適合させるため、近代化する必要がある。

−先進国は国の計量制度の中で先端技術を取り込む必要がある。

相互承認は、法律上の理由により、時には禁止されることもあり、禁止されないにしても、非常に困難な状況に置かれることもある。こうした状況は、OIMLにとって非常に重要な活動の場を与える。OIMLは、これらの国々に、自国の法律体系の中に、規則の整合化や相互承認、より一般的には、相互信頼の成立を可能にし、円滑化できるような施策を導入することを勧める。

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国際地域の法定計量は益々活発になっている

国際地域の計量と法定計量の活動は益々活発になっている。大部分の地域が、多くの場合、より一般的な地域協力の枠組み(APEC、SADC、EU、OAS)の中で、計量の協力機関を設置している。国際地域機関の中には、法定計量の特別分科会(COOMET、SIM)を持ち、世界的に計量に取り組んでいるものもあり、一方では、科学計量と法定計量を明確に分けた機関(EUROMET-WELMEC、APMP-APLMF)もある。

国際地域計量組織(RMOs)と国際地域法定計量機関(RLMOs)の目的は、世界的に見れば、地域の計量の発展を促進し、相互信頼を築くことである。法定計量について言えば、これらの目的には以下の行動が含まれる。

−国の計量制度に関する情報交換を進める
−計量器の試験・評価の手順を整合化する
−計量器の試験・評価の研修コースを開設する
−国際地域の国際比較を組織する
−国際地域の場で相互承認協定を促進する
−法定計量の国際地域固有の問題(例えば、穀物水分など)を調査する
−OIML作業への国際地域の貢献を進める
−国際地域の開発途上国を支援する(研修、フェローシップ等)

国際地域のこうした行動はOIMLの行動と競合せず、補完的な関係であることに留意すべきである。国際地域法定計量機関(RLMOs)が引き受ける活動は、OIMLの場では効率的に行うことができず、最も重要なのは、国際地域機関がこのような活動を通じてOIMLの目標に貢献することである。

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相互承認は大抵の計量関連分野で進められている

計量・認定分野の国際社会は何年も前から相互承認の必要性を認めていた。それぞれの国際機関は、貿易の技術障壁を除去するために、有効な基本事項を定めた相互承認協定を既に完成させているか、あるいは策定の段階である。OIML草案“MAA”とは別に、三つの協定や取決めが間もなく適用できるようになり、連続性のある一組を形成することになる。

−CIPM相互承認取り決め(MRA)は、現在運用されており、国の計量標準及び国立標準研究所の試験能力の同等性について規定している。これは、承認の階層組織の第一段階にあたる。

−ILAC MRAは、校正試験所及び試験所の認定の同等性を確立するであろう。相互承認された国家計量標準から始まる、トレサビリティーの連鎖の認定は、今度は、承認された試験所の首尾一貫した測定と試験結果を提供するであろう。

−IAF MRAは製品認証機関及び品質システム認証機関の認定の同等性を確立するであろう。製品認証で活用される試験結果は上述の二つの協定でカバーされているため、製品認証機関は、IAF MRAの下で国際的な信頼を得ることができるであろう。

これらの3つの相互協定により、認定機関の業務や認証された製品の性能に対する国際的な信頼を与えることができる。計量はこれらの相互承認に欠くことができない基礎を形成し、相互承認と自由貿易を可能にするために必要である。

これらの協定は、仮に認定行為が、被認定機関の業務に十分な自信を与えるという本来の目標を達成するならば、結果として国際貿易の円滑化に大きく貢献することになる。計量とトレサビリティは、認定制度が信頼を築くための有効な基礎を提供する。今、二つの問題が肯定的な回答を必要としている。

−全ての認定制度は現在、様々な国の政策決定者から、認定試験所の業務や認定機関が認証した製品を明瞭に信頼できるほど、十分な信頼を勝ち得ているだろうか。

−MRAを実施する際に、この信頼性の水準は保てるだろうか。つまり、政策決定者が信頼できる認定機関のみを承認する場合に、自分達の認定機関の締結したMRAを信用できるだろうか。

これらの二つの質問は、上述のMRAだけではなく、現在開発中のOIML相互承認取決めにとっても、ある程度は成功の鍵を握る問題である。もし、これらの質問への回答が肯定的なものでなければ、認定機関は自分達の顧客の信頼を失い、単に消滅のリスクを負うことになる。認定機関は、相互承認を受け、これにより営業上有利な立場を確保するため、深く考えないで相互承認を受入れようという誘惑にかられるかもしれない。しかし、余りにも簡単に相互承認を受入れることは、彼らの信用に影響を及ぼし、立場を弱くする可能性もある。

このジレンマを解決するのはかなり難しく、認定機関は細心の注意が必要である。CIML委員から、こうした言葉で意見が述べられたことはないが、このジレンマは、また、OIML MAAの現在の作業の背後に横たわる根本的な問題であり、このプロジェクトの実施に課題を残している。

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法定計量における認定と承認

CIPM、ILAC及びIAFにより3つの相互承認取り決めが開発されたため、法定計量分野で相互承認を開発する環境がほぼ整ったと考えられる。想定される四者の行動基準は以下のとおりである。

−OIMLは整合化した技術要求事項と試験手順を設定し、
−CIPM MRAは承認されたトレサビリティーのための基本事項を保証し、
−ILAC MRAは校正のトレサビリティーと試験結果の信頼を保証し、
−IAF MRAは型式承認と当初検定の承認を保証する。

この方法は実に論理的で、単純で、首尾一貫しているだろうが、理想的には、製造された計量器の法規制の国際相互承認を供給するべきである。この場合、OIMLは特別な相互取り決め制度を検討する必要はなく、ただ、要求事項と試験手順の整合化や認定機関から求められる技術専門家の提供に注意を向ければよい。

実際、この方法では、法定計量は三つの課題に直面する。

一般的な問題は、規制当局の文化と関連している。法律、規則に責任があるこれらの機関は、任意の分野で運営している機関に権限を与えることには一般的に消極的なことである。多くの国では、法の施行機関でない認定者の国際組織に、認定に基づき、型式承認や初期検定の証明書発行機関を指定する任務を負わせるなどは考えられない。これは法定計量や計量標準に関する法律の大きな変更を意味するので、法定計量機関の使命、性格そして存在自体が問われる問題と考えられるであろう。

法的な要求事項の設定を国の標準化団体に委任できないのと同様に、規則の整合化を国際標準化機関に委任できない。そして同じく、法定管理を実施する機関の指定を、規制を実施する責任がない認定機関だけの手に任せることはできない。

第二の問題は技術的なことである。法定計量の要求事項は、一般的に製品認証で使われる要求事項とは異なる。認証を受ける製品は、一般的に、特定の条件の下で設置・使用される場合に特定の性能要求事項を満たせばよい。通常の規格や製品認証では、認証を受ける製品が、定められた条件外で設置され、使用される際の動作は考慮されていない。

法定計量では、その逆で、計量器は、使用者が何をしようが、条件が何であれ、一般的な性能要求事項を満たす必要がある。さらに、法定計量器は誤った操作、詐欺行為、改ざん、極端な温度や電磁気や電気の条件、そして、内部の欠陥、ショック等に持ちこたえられるか、適切な対応を可能にする必要がある。通常の製品認証ではこのような付帯事項が必要ではなく、現在に至るまで、認定はこのような法定計量で必要な製品評価に対応して設計されてはいない。

第三の側面は、国内の法定計量機関の認定機関に対する信頼と、両者の間の関係である。これは国によりかなり違っており、二つの極端な例がある。

−ある国では、認定機関は、技術規制(法定計量を含む)を担当する国家機関により直接的、あるいは間接的に設立され、その後独立し、これらの機関と緊密な関係を保っている。この認定機関の文化は法定計量機関の文化に近く、信頼度は一般的に良好である。

−他の国では、認定機関は試験機関あるいは認証機関の発案で設置され、多かれ少なかれ規制当局からは反対勢力として見なされている。この場合には、法定計量機関の認定機関に対する信頼度は低い。

上で述べた三つのMRAは相互承認にとって非常に重要な道具であり、OIML相互承認プロジェクトを進めるために活用すべきである。しかしながら、これらの三つのMRAだけでは、法定計量証明や管理に対する相互信頼を提供するには不十分で、OIML制度の具体的な規則で補足しなければならない。

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OIML MAA草案

将来の理想的な姿は、ある国で認証された計量器が、他国で、型式承認や初期検定のための追加試験を受けなくとも、そのまま使用され、また適切な管理の下で実施された測定結果が承認されるようなOIML制度を持つことであろう。これが、グローバルな計量制度から期待されている。

このような制度を実現する二つの方法が想定されている。国家間の計量制度の相互承認か、もしくは、OIMLが国際地域機関と国家機関の参加を得て運営する国際認証制度の確立と承認である。両者ともに相互信頼が必要である。全ての国における法定計量規制は以下の活動を含む。

計量器を使用するためには、

−型式試験及び型式評価の試験結果、
−計量器の型式が定められた要求事項に適合することの証明、
−個々の計量器の試験及び試験結果、及び 
−個々の計量器が型式に適合することの証明が必要である。

更に、測定結果に対する信頼が求められる場合は、

−維持、保全、有効なトレサビリティーの監視及び計量器の使用の監視が必要である。

相互承認の締結あるいは型式認証や個々の計量器の認証の受入れを可能にするため、国によっては、法律・規則を改定する必要がある。

いずれにしても、グローバルな計量制度の確立に向けて前進するには、試験結果の相互信頼とこれらの結果の相互承認が何よりも必要である。これが、更なる飛躍を想定する前に達成しなければならない第一歩である。このために、OIML相互受入れ取り決めの草案は、当初、OIML証明書の承認を目指していたが、今ではOIML証明書に関連した試験報告書と試験結果の受入れに限定している。

このMAA草案の中で三つの問題が難しい議論を引き起こした。

−様々な関係組織(CIML委員、発行機関等々)の権限の性格及びそれぞれの役割を明確にする必要があった。

−「試験結果」という言葉が意味する範囲は国により様々に理解されているようだ。前述のように、法定計量における試験は、試験手順書に全てが明示されているわけではなく、また、試験結果はいつも量で表されるわけではない。例えば、不正行為の審査は、測定誤差の評価のように十分な説明ができない。このような審査の手順と審査結果を簡単に比較することはできず、この問題に対する相互信頼を築くのは、はるかに難しい。従って、これらの審査の結論を試験結果と見なしていない国もある。

−相互信頼を醸成する方法はこの草案の中心的な争点である。前述のように、加盟国の間で、法定計量の技能を評価する認定機関の能力に対する信頼の度合に温度差がある。相互信頼を醸成する方法として、二つの選択肢をMAA草案に盛り込む必要があった。一つは認定を使用することであり、もう一つは法定計量機関の判断を利用することである。認定以外の選択肢を決める方法が検討された。自己宣言、自己評価、相互点検、相互評価、相互審査、国際比較等。これらの異なる方式の言葉使いと意味は、議論の中で、最も重要であった。

MAA草案は現在TC3/SC5により文書案になるための投票が行われており、近日中にCIML委員にも意見と投票を求めた文書案が送付されるであろう。OIMLの目標に結びついたこの文書の重要性を考慮し、その採択の方法が10月の37回CIMLで議論される。

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グローバルな計量制度に向けての更なる前進

OIML MAAで達成した第一歩は世界計量制度に向けて前進するために別の課題へと続くであろう。大部分の開発途上国は先進国で製造された計量器を輸入し、これらの計量器を管理する必要な設備を地元で持っていない。彼らは、型式が要求事項に、そして個々の計量器が型式に適合していることを確認するために、全面的あるいは部分的に他国で実施した試験や管理に頼らざるを得ない。

MAAは型式試験への信頼を生み、これらの開発途上国の国家型式承認を円滑にするであろう。しかし、個々の計量器の型式への適合を保証する適切な手段を持たない型式承認は無益である。そのためには、当初検定の型式への適合と試験を含んだ、個別の計量器の認証のためのOIML制度を立ち上げることが必要である。

ここで初めて、OIML証明書のあり方の詳細を明確にしていく過程の中で、標準化されていない審査及び評価に関連する問題、例えば、不正、信頼性、ソフトウェアの審査等々の問題を明瞭にすることが必要になる。現行のMAA草案は、近い将来、国及び法定計量機関が相互信頼宣言に署名することができるようになっているが、こうした種類の審査は、MAAの枠組みの中では承認されないだろう。これらの審査結果への信頼は、(例えばソフトウェアのための)ガイドや手順書を開発することにより、そして、あるいは、知識の相互交換、相互訪問や相互点検、国際比較等々により醸成される。

ここで当初検定について触れなければならない。これは、個々の計量器が承認されている型式に適合すること、及び、全品検査または統計上の試験が実施されることを必要とする。この段階で、現行のMAAよりも、加盟国の法定計量機関に深刻に干渉することになるであろう。試験結果の承認はあらゆる種類の法定計量機関の制度に適用されるかもしれない。型式承認審査の担当機関は、可能ならば、他のMAA参加者が提供した試験結果を受入れ、活用するかもしれない。当初検定を考慮する時、原則問題が生じる。製造事業者が提供する適合性証明の受入れ、及びこの証明が受入れられる条件、統計的管理の法的容認性等々である。OIMLにより定義され、実行される制度は、国々で法的に受入れられるべきである。多くの場合、国の法律や規則は変更を求められる認定に基づきであろう。このプロジェクトが成功するためには、OIMLが勧告した適合性評価の手順を首尾一貫したやり方で記載したOIML文書を策定し、採択する必要があるであろう。

測定結果の承認は、製品の取引にとって非常に大きな問題である。これらの測定に使用される計量器(これらの計量器は、計測結果の承認を想定している国では設置されない。)の型式承認や当初検定を法的に承認することが全ての場合に必要だとは限らない。しかしながら、計量器の適合性及びトレサビリティ−への信頼が必要であり、また、計量器の維持及び正しい使用に対する信頼も必要である。

こうした全ての将来開発に取り組むための計画あるいは作業プログラムが必要になってくる。これらの問題に順次取り組むには、余りにも長い時間が必要で、進捗が遅い結果となり、OIML加盟国が認めないだろう。適当な時期に結果が出るように、多くの問題を並行して検討しなければならない。

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OIML相互承認制度における地域の役割

全国際地域の多数の国を参加させる相互協定を実施するとき、国際の場での、中央集権化したやり方で全ての業務を引き受けることは可能ではない。このため、国際地域計量機関がCIPM MRAの中で本質的な役割を担っており、中央集権化した活動を補完するために国際地域の活動を運営している。同様にOIML MAAの実施も国際地域法定計量機関の積極的な参加を必要としている。

一般的に最初に考慮されるのは、法定計量の相互信頼には、直接的な対話を頻繁に行い、共通の手順に関する技術的な問題をやり取りする必要があることである。このような接触及び情報交換は国際の場では簡単に行えず、国際地域の場の方がはるかに容易である。例えばWELMECでは、次のような理由で、型式承認協定が認定又は相互点検の正式な手続を踏まず、署名された。

−全加盟国の法定計量機関の間で頻繁に接触があること、

−実際に、WELMECの全加盟国で、同じ型式の計量器が現在型式承認され、使用されており、また、これらの計量器についての情報交換が既に十分行われてきたこと。

OIMLは、全ての加盟国の間で十分な交流が行われるよう組織化することは到底できないが、若干の加盟国を通し、そして、国際地域活動の調整を円滑に行うことにより、国際地域間に橋を架けることができる。

MAAの実施には、認定作業および相互評価作業に参加する技術専門家が必要である。これらの専門家は、MAAの実施に要する経費を妥当なレベルで抑えるために、主として申請者が属する国際地域から参加する。国際地域法定計量機関(RLMOs)としては、これらの任務のための適任の専門家を特定しなければならない。

国際比較を組織しなければならない時には、メートル条約と同様のやり方、つまり、国際地域間比較で補完された限定的な国際比較という形で、組織するべきである。これもまた地域法定計量機関(RLMOs)の重要な役割となる。

また、地域法定計量機関(RLMOs)は、国際地域内でMAAの実施を推進し、加盟国がこのMAAに参加する手助けをする必要がある。MAAへの参加を促すには、認定や相互評価や研修などの、参加準備のための技術支援が必要になるであろう。

国際地域法定計量機関(RLMOs)から得られるMAAや相互信頼宣言の運営についてのフィードバックは非常に重要である。国際地域法定計量機関(RLMOs)は、個々の相互信頼宣言の運営を保証する「参加検討特別委員会」に国際地域の代表者を出席させる必要がある。国際地域法定計量機関(RLMOs)は、MAA文書が改訂される時には、特別委員会またはOIMLの場で、MAA制度の欠点を明確にし、その欠点を考慮に入れ、解決を図ることができるであろう。

上で述べたような更なる発展が、実行されれば、国際地域法定計量機関(RLMOs)の役割は当然のことながら、益々重要になっている。

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結論

OIMLの技術作業は、国の法的計量要求事項の違いにより生じる技術障壁を除去する目的で、規制の整合化を目指している。この視点に立つと、OIML国際勧告の開発は、これらの障壁を除去するのに十分とは云えず、相互承認制度で補完する必要がある。

我々はこの作業の端緒についたばかりである。OIML証明書制度は既に組み込まれており、型式承認の試験結果の相互承認制度は定義されつつある。この相互受入れ取決め(MAA)は、できるだけ早く採択の手続きを進めるために、次回のCIML会議で議論される。国際地域法定計量機関の役割は、この相互受入れ制度を普及させ、正確な実施を保証するためには、非常に重要である。

相互承認制度を発展させるプロセスは初期検定の承認や国際貿易における計測結果の承認へと引き継がれ、国際地域法定計量機関の側に、益々活発な役割を果たすよう求めている。

OIML内での協力や国際地域法定計量機関との協力を通じて、そして計量および認定に関係する国際機関及び国際地域機関との協力を得て、我々はグローバルな計量制度に向かって歩まなければならない。

こうした視点で、OIMLはメートル条約やILACのような他機関との連携を強固にし、新たな共通作業を開始した。

−加盟国の世界計量制度への参加を促進し、経済及び社会発展を支援するために、OIML文書 No. 1「法定計量」を改訂し、加盟国が法律を改善するための助言を行う。

−途上国技術支援合同調整委員会の設置

国際地域法定計量機関との調整もまた強化されるべきで、第37回CIML会議では、この件についての提案、とりわけ、OIMLの組織の中に国際地域法定計量機関(RLMOs)調整評議会を設置するプロジェクトについての提案が議論される。

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