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第208回NMS研究会報告(2015年6月)

(3080号/2015年11月8日掲載)

日本水環境学会 窪田葉子

 2015年6月6日(土)、品質工学会会議室で、第208回NMS研究会が開催された。

1、何にでも役に立つ品質工学(3)−ある特性を持った材料の開発(応用計測研究所、矢野宏)

 発表は、過去に役立った例を品質工学会誌に連載しているものの解説。
 技術開発には計測技術=評価方法が重要で、これが問題なければ利得も再現した。利得が再現しないのは始まり(何かが悪いことがわかる)であって結果ではない。計測方法(何を、何処を、どうやって測るか)が重要であり、それぞれ固有であって一般論ではできない。何が信号因子かが判らないということはどう解析したらいいか判らないということで、判る人を捕まえなければならない。
 ファインセラミック開発では、平均粒径ではなく粒径分布が重要で分布によって成型がまるで違うこと、混練さえうまくいけば焼成はどうにでもなることなど、システムは前工程が重要であることを痛感した。タイル焼成においては、手を出せない窯の条件には手を出さず、釉薬等の条件で対処した。
 確認実験において、不連続の場合(時間が経過している場合)はその間に誤差因子が変化していることがあるため、利得の再現性だけでも良いが、連続で実験している場合は絶対値も再現すべき。最適条件がうまくいっても比較条件でうまくいかない場合は、誤差条件がきちんとしていないことを示す。劣化試験は1時間以内にすべきという田口の指摘は、劣化試験が1時間で済むような強さの劣化条件を与えるべきということ。
 会社の経営者は損失関数より経費を重視する。社会損失は会社にも戻ってくるがタイムラグがあり、既存工程の効率化やクレームが減るのは判るとしても、減った社会損失は確かめようがない。実感できるか/どう実感するか/自分が実感できないことを人に納得させられるかがカギになる。品質工学への反対者は、当たり前と思っていることに別の視点を与えてくれるし、納得すると逆転して支持者になってくれることもあるが、無関心の方が怖い。
 現象解明よりも、何を測るべきか、まともな計測技術が必要である。「何故の原因が判らないと対策が取れないから原因を知りたい」と言われるが、現象が解明できても対策がとれるわけではない、個別の問題(クレーム)の原因を解明しようとしても交互作用が判っていないのだから、個別要因を追及するのではなく、はたらきは何かを元にして全体として上手くいく条件を検討すべきである。現在の知識が不十分であったからこそ起きたクレームである以上、現在の知識で解決しようとしてもできない道理である。品質工学はそれを広げる手段になる。意図的に間違えるのが品質工学であり、意図的に間違えるから意図的に直すことができるのだから、誤差因子をどうとるかが重要で、十分に水準幅、範囲を広げる必要がある。良くなった後で要因効果図を見ることで原因が読める。
 バーチャル試験で利得が再現するのは無矛盾であることを示してはいるが、それが正しいかどうかは別の問題であり、確認実験をおこなう必要は常にある。L18が1回でうまくいくようなら、もともと難易度が大したものではなく、3回はおこなう必要がある。利得が再現しない場合のほうが知らないことがはっきりすること、クレームになることがはっきりする点で有効だ。実際のバーチャル実験の効果として、ベテランといえども「実際にそうなること」を要因効果図で示すことが求められるようになったという変化もあった。
 矢野いわく「自分の過去の失敗を伝えることによって、その轍を踏まず成功してほしい」とのことである。ただし、記録者私見としては、往々にして人は自分で失敗しない限り身につかず、多種多様な失敗にもそれなりの類似性はあるが、失敗してからでないとその類似性には気づきにくい傾向もあることから、そう簡単にはいかないものと思う。

2、報告3題(コマツ、細井光夫)

(1)立場と品質工学への興味
 実際の担当者は業務の内容によって反応が異なり、品質工学の導入によって業務が増える業種・部署の場合は否定的な人の率が高い。結果に責任を持つ立場のその上司は品質工学に肯定的な人が圧倒的に多くなり、さらにその上は協力的ではあっても「やるからには成果を出せ」ということになる。従来、検討テーマは現場レベルに出させていたが、上から出すように変わってきている。
(2)エキシマレーザー耐久性向上のためのパラメータ設計
 予備電離電極のセラミックと金属の隙間を小さくするため、隙間ゲージを入れて測定実験した結果を元にシミュレーションをおこない、望小特性で解析してパラメータ設計をおこなった。その結果、予備電離電極の改善によりエネルギー安定性が改善され、耐久性が2倍以上になった。隙間ゲージの厚みを3種類にしているので動特性でみたほうがよい、基準点比例で解析したほうがよいとの指摘があった。
(3)プラズマ切断機用電源の冷却水路のパラメータ設計
 プラズマが溶けないように、残留熱量を下げ、電極部を低温化するために冷却する水路について、冷却水量、冷却圧力との関係を、流路断面積を変えて定常状態で計算する方法を用いて検討した。利得は再現していないが、耐久性が1・2倍程度に伸びる効果があった。
 時間に関する検討が必要で、特に熱は重要との指摘があった。また、現行が合って最適の再現性が悪い時は特性値の設定が悪く、最適が合って現行が合わないときは誤差因子に問題があるとの指摘もあった。

3、製造段階における品質工学(日精樹脂工業、常田聡)

 大ホール2日目午前論説の案を紹介。マクロ視点として全体最適やグランドデザインに最初から組み込むことを、もう一段高い視点として管理と製造の協業を、製造が非常に重要であることを、さらに「開発期間と開発コストの圧倒的な短縮と低減を狙う」こと、最初にきちんと設計しなければいくらできた製品の品質水準をチェックしても不具合はなくならないものであることを示す予定であるとの報告に対し、工作機械メーカーであることを前面に押し出した論説にしてほしいとの要望があった。たとえば、加工機の重要性、製造プロセスのなかの製造段階とはどこまでを含むのか、リコール(自動車)では設計問題の比率が高い。内製の場合は(実力があれば)設計が悪いと突き返せるが、外の場合は難しい。品質保証部は受け取った段階で自分の責任になり、駄目なものであるなら返すべきであるが、出荷が止まると言われても返せるか、全部返したら逆に「無責任」ではないかとの指摘もあった。

4、ハミガキ剤製品開発のための技術開発(ヱスケー石鹸、秋元美由紀)

 従来の開発は部分最適だったとの反省に立ち、原料や工程の基本特性の見直しをおこない、品質特性ではなく機能性に着目し、いくつかの機能(硬さ、均一性など)をまとめて示すものとしてハミガキに棒を侵入させた時の挙動、および微生物汚染に対する安定性(植えつけて3日後の菌数)で評価した。検討中、ハミガキ自体の損失を最初に議論しておくべきだったことに気づき、実際にチューブを絞ってみて機能限界を求めることもおこない、ベース処方が開発できた。
 原料のグレードは制御因子であって許容差設計の対象ではないこと、パラメータ設計の利得の再現性が悪すぎ、誤差因子が悪いという可能性もあるが何らかの計算間違いではないかとの指摘があった。また棒の侵入実験で押し込み始めは誤差が大きく、ゼロ点をどこにするかが問題との指摘もあった。

5、日本企業の業績診断における単位空間と企業の項目診断の検討第2報(NMS研究会、吉原均)

 大会発表のプレゼンについて、いくつかの指摘があった。老舗企業を単位空間として検討しているが、業績診断を説明する際に、誤圧距離の大きさが業績の良し悪しを示しているわけではないことを明言した方がよい。トヨタ自動車の誤圧距離は、リーマンショックで小さくなってその後もとに戻るような変化だが、項目診断を見ると、別の項目の変化で距離が戻っている。会社が変化したといえるのか?などが議論された。
■主宰からのコメント
 11月のNMS研究会のテーマは「私の研究履歴」であり、準備しておいてほしい、楽しみにしているとの主宰からのコメントがあった。
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