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計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事寄稿・エッセー(2015年一覧)>【矢野宏】第23回品質工学研究発表大会報告

日本計量新報 2015年7月5日 (3063号)6面掲載

第23回品質工学研究発表大会報告

応用計測研究所(株) 矢野宏

2015年6月15日、16日と2日間にかけて、東京の東端タワーホール船堀で、第23回品質工学研究発表大会が開催され600名近い参加者があった。発表の方法もほぼ定式化されて、大ホールの壇上発表と個別に分かれたポスターセッションに分かれる。通常の学会では壇上発表が名誉で、ポスターはその他と分類されるが、品質工学会ではポスターの人気も高く討論も活発である。したがって壇上にはさらに高度な発表が集まる。

■第1日目壇上セッション「マクロ視点での品質工学」
 松浦機械製作所青木規泰、一裕信、高畠桂二朗、矢野宏が「機械組立工程全体作業の最適化」のバーチャル設計では、1台組み立てるのに20日間はかかるマシニングセンターの組み立てを、イメージで組み立てするだけで、作業者による品質損失を1千万以上低減した。広島県総合技術研究所水野健一郎「気象・海象情報を用いた赤潮発生判別」は特産の牡蛎養殖において、赤潮の発生に予測的に対策を可能とする方法の開発で、億単位の損失低減をおこなう。精密測定技術振興財団品質工学賞発表賞金賞を受賞した。松浦機械製作所天谷浩一、横田喜数、前田敏男、矢野宏「『売れる機械を予測する』マーケティングへのMTシステム適用を考える第3報」は、マシニングセンタの設計と販売をめぐって、売れた機械では設計のよさが、売れなかった機械では社会条件の変化の影響が重要であることを明らかにした。公開されることはないが、設計条件の重要性のデータの蓄積効果が大きい。精密測定技術振興財団品質工学賞発表賞銀賞を受賞した。

■第1日目「開発・設計における品質工学」
 トヨタ自動車橘鷹伴幸、不破直秀、田中公明、矢野宏「エンジン燃焼における壁温分布の最適化第2報」は低質のオイルでもエンジン燃焼の効率を高めるエンジンの設計条件を明らかにした。これに関連して第2日のポスター発表でトヨタ自動車の三宅慧、橘鷹伴幸、不破直秀、藤田啓明、矢野宏「特性値シミュレーションを活用したクランクシャフトの最適設計」は、回転体としてのエンジンの燃焼効率を上げる成果であった。ヱスケー石鹸秋元美由紀、安藤欣隆「ハミガキ剤製品開発のための技術開発」は、歯への対策が平均寿命を伸ばすといわれるハミガキ剤の開発で、損失関数の評価もあり、精密測定技術振興財団品質工学賞発表賞銀賞を受賞した。広島県立総合技術研究所高辻英之他「マガキの個体成長評価による養殖資材開発」は養殖用に牡蛎殻ではなく、合成樹脂の殻でリサイクル性を高めたものである。

■第2日目壇上発表「製造段階における品質工学」
 マツダ中原寛海、大塚宏明、岡山一洋、西本光毅「加工後のワーク変形の抑制」はプレス型の変形の抑制問題で、久保祐貴、岡山一洋、大塚宏明、宇都宮誠、安藤浩一、芝橋恒成、岩田正樹、藤川宏明「めねじ加工条件の最適化」は、困難な中孔でのねじ加工で、ともにマツダの金型生産技術センターの成果である。マツダは重役が退任して勢いが鈍ったが、新しい影のマネージャーの力で少しずつ回復している。リョービ寳山靖浩「工場空調の最適化」は工場全体の空調で季節を問わずに最適化して、温度を安定化する方法で、まさに省エネ技術の追求であり、精密測定技術振興財団品質工学賞発表賞銀賞を受賞した。広島県グループの健闘が目立つ。

■第2日目壇上発表「評価における品質工学」
 「評価」はいわば品質工学の真髄であり、司会のヱスケー石鹸安藤欣隆のまとめが、田口玄一博士の主張を見事に総合化して圧巻であった。YKK城岸宏行「輝度値評価による染色外観品質の向上」は「品質が欲しければ品質を測るな」に反するものの、ファスナーの布部の染色に、目的特性で最適化した。コニカミノルタ奥澤翔、埴原文雄「バーチャル設計を用いたシャッタ機構の設計」は、コピー機の感光体のシャッタ機構にバーチャル設計を適用する上での本質的な問題を検討している。実行委員長賞を受賞した。NMS研究会吉原均、矢野宏「日本企業の業績研究における単位空間の検討と企業の項目診断第2報」は日本には100年以上続いた中小企業が世界の60%を占めており、強さの原因を明らかにした。中小企業は弱くて潰れやすいというイメージとは異なる。この成果は秋の大会でさらに検討して発表される。

■ポスター発表でもめざましいものが
 松浦機械製作所前田敏男、天谷浩一、矢野宏「MTシステムの利用によるソフトウェア開発段階での操作性評価」はソフトウェアを自ら開発する方法の研究である。小型の直交表の利用から始まって膨大なソフトウェア開発工程の効率化である。あじかん金築利旺、原田真介、白川秀喜、矢野宏「私服への毛髪付着数低減の研究」は食品業界で発生している不要物の混入のひとつ、毛髪への対策という緊急問題である。トヨタ自動車沢田龍作、不破直秀、武藤大志、イマジニアリング池田裕二、西山淳、和智良裕、矢野宏「イオン流検出装置のロバスト最適化検討」は自動車にとっては不可欠のエンジン燃焼の効率化に関わる問題である。エンジン筒内燃焼状態の把握のための装置の最適化である。トヨタ自動車が数件の発表をおこなうことは日本にとっても心強いことである。
 富士ゼロックス関連で西崎早織、梅澤智樹、松崎広和、皆見健史、木下卓、山崎憲二、中山秀生「LEDプリンター用半導体素子の新規ピックアップ技術の向上」、村松康裕、鈴木政貴「リユースLED Print Head再生工程の確立」、高橋義典「機能性評価によるブレードクリーニングシステムの負荷低減」はいずれも品質工学の老舗である富士ゼロックスの発表である。特にリユース問題は注目してよい。IHIの増子仁美、高松喜久雄、三橋克則「ロケットエンジン用タービンのロバスト設計手法の検討」、濱田剛俊「精密部品用台車におけるキャスター選定への品質工学適用の試み」、長尾友「基幹設備の点検・保全方式の検討」などはいずれも機械系の手堅い発表である。長尾は会長賞を受賞した。

■大会全体として
 第1日目の15時20分から星野岳穂経済産業省大臣官房審議官、損斐敏夫(一財)日本規格協会理事長の来賓あいさつがあった。基調講演は齊藤潔品質工学会会長による「日本産業の課題克服に向けて品質工学の果たすべき役割」であった。さらに田口賞、(公財)精密測定技術振興財団品質工学論文賞、ASI賞の表彰式がおこなわれた。
 第2日目の14時40分から田口賞受賞の松浦機械製作所松浦勝俊の受賞記念講演、(公財)精密測定技術振興財団品質工学論文賞受賞者の記念講演、ASI賞受賞者の記念講演が実施された。最後に大会発表のなかから、(公財)精密測定技術振興財団品質工学発表賞、品質工学研究発表大会実行委員長賞、品質工学会会長賞が選定され、表彰された。金賞が水野健一郎、銀賞が天谷浩一、秋元美由紀、寳山靖浩であった。


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