計量計測データバンク「日本計量新報」特集記事計量関連団体 年頭所感(2015年一覧)>【(一社)日本分析機器工業会会長】分析ビッグデータ

2015年 計量関係団体 年頭所感

分析ビッグデータ

(一社)日本分析機器工業会会長 服部重彦

服部重彦 昨年11月にバルセロナで開催のスマートシティエキスポ世界会議を視察した。京都府が昨年の3月に開催者のフィラバルセロナと協働して京都スマートシティエキスポの第1回を開催し、今年5月に第2回を開催する予定で、行政と共に本家バルセロナの視察、そして主催者との交流が目的であった。スマートシティは当初、スマートグリッドをベースにBEMS、HEMS等、電力の効率利用を目的とする動きであったが、今は都市における人や車の流れ、物流、天候、電力、上下水、これにツイッタ―などのSNS等の情報を加え、あらゆるビッグデータを活用した、安心、安全、そして快適な都市空間の創出、さらにニュービジネスの模索に大きく変化している。会場内もMicrosoft、IBM、Cisco、ORACLE、Telefonica、SAPはじめとする大手ICTや通信企業、そしてセンシング機器のメーカーが積極的にブースを展開していた。ビッグデータビジネスはここまで来ているのかとの印象を強くした。
 高齢化の進むわが国においては、テーラーメイド医療の実現や未病健康産業等の創出に向けた動きが加速しており、カルテ、処方箋、各種健康診断の結果情報、治療、投薬の履歴、DNAの情報など、医療ビッグデータの重要性はさらに増大している。現在、大規模ゲノムコホート研究が不可欠とされているなか、海外を見るとすでに積極展開されており、英国ではBioBank UK(BBUK)のような大規模研究(50万人,英国の人口の約1%)が10年以上の実績を持っている。一方わが国では、日本学術会議などでも、40歳以上の健常者100万人規模のコホート構築を提案いただいているが、残念ながらデータ形式の標準化を含め、国を挙げての取り組みは進んでいない。2013年5月、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(いわゆるマイナンバー法)が国会で成立し、来年(2016〔平成28〕年)1月から番号の利用が開始される運びとなった。これを機に個人に与えられる番号を単に行政の簡素化に使うだけでなく、個人ベースの各種情報(医療ビッグデータ)を一元化することにより医療、ヘルスケア分野の診断や治療において質の向上に資するものと信じている。
 分析機器の分野でも近年の分析計測技術の進歩により、遺伝子解析、タンパク質マーカー探索、代謝マーカー探索、細胞研究などにおいて飛躍的な発展をもたらしており、質量分析装置や、液クロを用いた新たな臨床診断技術確立のための研究が進みつつある。当工業会もこれを「先端診断」として「分析技術と多様な科学技術の融合により創出される新たな臨床診断やヘルスケアマネージメントを確立するための研究領域」と定義づけ、昨年度は研究会を立ち上げた。昨年のJASISにおいても「先端診断イノベーションゾーン」として特別企画を組むなど今後の最重点課題として捉えている。タンパク、アミノ酸等の膨大な情報、さらに個人ごとのDNA情報,病歴,生活習慣情報,外的環境情報等、われわれも医療ビッグデータの一端を担うことになる。バルセロナのスマートシティエキスポを見て、期待値も入るが、スマートシティが創り出す世界は、ワットが蒸気機関を発明した18世紀の産業革命に匹敵、または超えるのではないかとの印象を持った。今年はぜひ当工業会から、ビッグデータに関して他の産業をリードするような取り組みが披露できるような年にしたいものである。

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